第18章 明日がくるなら
咲と共に姿を現したのは、垂れ目が印象的な優しそうな女性だった。私より少し年下だろうか。
『御世継ぎ様のお世話役として一名を、秀吉様のご判断を受けながら決めさせて致しました。これへ。』
『はっ、はい。
お初に御目にかかります。湖都と、申します。
宜しくお願い致します。』
湖都さんは、少しだけ震えながら頭を下げた。
「湖都さん。宜しくお願いしますね。」
『あっ、はっ、はい! 奥方様、宜しくお願い致します。』
「ふふっ。緊張しなくていいよ。」
『湖都。』
『はっ、はい!』
『我が奥方、は奇想天外なことをしばしば言い、予想外な動きをする。だが、は、安土の陽の光りそのもの。それが曇らないよう、支えよ。』
『はっ、はい。』
『咲、そなたもこれからも頼む。』
『はっ。ありがたきお言葉。』
咲と湖都さんは、揃って頭を下げたあと、後ろに戻っていった。
『皆、世継ぎの世話役の湖都を支えよ。』
『はっ。』
『では、この度、産まれた世継ぎの幼名を言い渡す。』
信長様が襖から昨日のしたためた和紙を出した。
『…。。貴様が言え。』
「え、私?」
『貴様が決めたのだ。元服した後の名は俺が決め、俺が言う。』
「あ、そうなんですか。えぇ、緊張するなぁ。」
『はぁ。いいから言いなよ。みんな待ってる。』
『家康!』
「よしっ!言います!
この子の幼名は… 奏信(そうしん) とします。」
私が言い切ると、信長様が和紙を広げた。
『奏信…様。』
『奏でる、に信じるか。』
『御館様の一字を使ったんだな。』
『不思議な名前。さすが。』
『様、お名前に意味はありますか?』
『あるよ、三成くん。
なにも知らない私を認め、信長様の隣に立たせてくれた。
そして母にしてくれた。
私はこの安土と、それを護るみんなが大好き。
そんなみんなのいる安土の風の音、雨の音、陽の光や草木の匂い。大地の暖かさ。その全てを五感を使って奏でながら、信じる何かに向かって生きていく。
信長様と皆の背中から学んで心身ともに生きていってほしい。
その願いを込めました。』