第18章 明日がくるなら
翌朝、軍議が終わる頃、私は広間に向かった。
腕のなかには、すやすや眠る暖かな温もりがある。
時空のいたずらで500年の時を越えた私は、様々な出会いと出来事を乗り越えて、母になった。
500年先にいる母には抱かせてあげられない寂しさは、きっと消えないけれど、きっと未来に繋がっているだろう陽射しに、赤ちゃんを向けた。
「元気に産まれたよ。強く育てるから、見ててね。」
小さな手がおくるみから抜け出した。
もうその手は開かれていて、夢も希望も放たれていた。
素敵な繋がりに恵まれて、手放したものを集められるように。
これから、この子の人生が始まるための名前が御披露目される。
私は、暖かみの増した空気を吸い込んだ。
※
『…軍議は終いだ。これより四半刻後、世継ぎの世話役と、幼名を披露目する。』
『『ははっ。』』
『秀吉、四半刻後に城勤めの皆を広間に集めよ。』
『御意。』
『いよいよだなぁ。家康。』
『政宗さん、今日の宴の料理も取り仕切るんですか?』
『当たり前だろ。の好物は俺が一番知ってる。』
『…それにしても、どんな名前にしたんですかね?』
『が考えたんだろう? 楽しみだな。』
城勤めの家臣や女中たちに声を駆け回る秀吉と三成を尻目に、光秀、政宗、家康は一息つくのだった。
『ここにいたのか。』
「信長様!…ほら、父上様よ?」
『起きているのか?』
「つい先程、起きました。まだ寝ぼけてるかな。」
信長様は、私の腕の中から抱き上げた。
「慣れましたね。」
『ふっ。俺を誰だと思っている?』
「ふふっ、…そうでした。」
自然と視線が絡み合って微笑み合う。
『行くぞ。』
空いた片手で私の手を握ると、信長様は広間に向かって歩き出した。
広間の手前には、秀吉さんが待っていた。
広間に入れない人がいないように、隣の部屋の襖も開けられていた。
信長様が入れば、誰もが頭を下げる。
いつ見ても背筋が伸びる緊張感。
上座から一段下がった場所に秀吉さんと光秀さん、
その真後ろに、政宗、家康、三成くん。
また一段下がって咲、弥七さんと吉之助さん。
そこからはずらりと家臣や女中さんたちがそろう。
『御館様、まずは御世継ぎの世話役のご紹介を。』
『あぁ。』
『咲。』
『はい。』