第17章 きみのぬくもり
(目線)
もう疲れと眠気で力なんて残っていないのに、御産婆さんが『次の痛みで息んで、』って言った。
もう無理だって…、そう思って間もなく、一番というような痛みがやってきた。
下半身が外れるような、息が出来ないくらいの痛み。
『いきんで!』
「むりぃ、っ!あぁぁ!…はぁ!」
『あっ、駄目だ!今気を抜いたら、赤子が苦しい!』
『様、今一度、いきんでくださいませ!』
「はっはっはっ、あぁ!あぁぁ!」
『、呼吸整えて。…。だめだ、過呼吸になっちゃう。』
「はっはっ、はぁっ。」
『駄目だ、呼吸が整わない!赤子の頭が抜けないと…。咲、に呼び掛けて!』
『はっ、様っ!様っ!』
『、ちゃんと息をして!』
「あぁっ、はっ。はぁっ。はっ。」
この世のものとは思えない痛みに、息を吸っているのか吐いているのかわからなくなった。
ただ、両手で空を探るようにしながら、私は呼び掛けた。
「のぶなが、さま…」
スパン!
『のっ!信長様!お待ちを!』
急に産室の襖が開いたかと思えば、信長様が入ってきた。
驚いている産婆や焦る秀吉さんを尻目に、の側に駆け寄り、空をさ迷うよう私の両腕を首回させて抱き締めた。
そして、噛み付くように口付けた。
『信長様!』
ほんの少しの口づけの間、場違いだと取り乱す秀吉さんや産婆の声が響く。
「はっ、はぁ。はぁ。」
口づけが終わると、呼吸は整っていた。
『家康、どうなんだ!』
低い信長様の声が、俺を呼び起こす。
『出産の直前に口づけなんて、聞いたこと無いですけど。呼吸は整いました。いきめる?』
「うっ、うん!」
そして次の瞬間、痛みが襲う。
『最後だ!いきんで!』
私は信長様に抱きつきながら上体を起こして、いきんだ。
その後すぐに、痛みが抜け落ちるように消えていくのがわかった。
「のぶ、ながっ、さまっ。」
『。』
抱き合わうような姿勢から、お互いの顔がわかる程の距離に離れる。
その時だった。