第17章 きみのぬくもり
(産室の襖を挟んだ廊下にて、目線なし。)
『が産気付いてから、もう一日が経つぞ。長すぎないか、大丈夫か?』
『兄様は心配性だな。』
『光秀!あんな悲鳴みたいな声を聞いてたら心配にもなる!』
『まぁな、のやつ、何も食ってねぇからな。体力が心配だ。』
『初産は時間がかかりやすいと、書物に書いてありました。まだかかるのでしょうか…。』
『全く…、信長様にを見習え。静かに待っておられる。』
光秀が視線を送る信長は、静かに縁側に座り月を眺めていた。
『御館様…。』
秀吉が声をかけるのと同時に、の叫び声が産室から聞こえ始めた。
『人と言うのは、この様に皆産まれるのだな。』
信長が静かに産室に視線を送りながら話し始める。
『急所に向かって刀をひと振りすれば、呆気なく失くなる命にも関わらず、生を得るまでには時間をかけ、母となる者の命を奪う程の痛みを持って産まれる。
…俺も、お前達も、。町人も、農民も。…我らに、仇なす者達も。』
『御館様…。』
『誠に。そのようですな。我らのひと振りは、重い。』
『光秀。お前が言うと、なんか身に染みるな。』
『政宗様、光秀様…。』
『俺の大望は、身分の無い泰平な世を作ること。それには失うものがあって当たり前と思っていた。
だが、身籠ったの姿を見て、声を聞いて。
出来る限りの手を使い、流す血を最小限に、大望に向えられたら、と思う。
…着いてきて、くれるか?』
『当たり前です! 御館様のお側が俺の居場所ですからっ!』
『…ったく。泣くな。秀吉。』
『みっ、光秀。』
『…俺は、今の人間味のある信長様も好きですよ。身分の無い泰平な世を、腹一杯食べて笑える世を、俺は貴方と目指したい。』
『私もです。微力ながらお供致します。』
『皆、同じ思いです。信長様。』
光秀の一言の後、信長に向け四人は膝を付き、頭を下げた。
そしてまた同じ時、産室から今日一番というような叫び声が聞こえたのだった。