第16章 きみの手のひら
「あぁっ、痛い。」
空が明るくなってきた頃から、陣痛はしっかり来たものになってきた。
だんだんと間隔が狭まり腰から下が外れてしまうような痛みが襲う。政宗が小さなお握りを握ってくれたけど、そんなの食べられなくて、咲が差し出してくれた湯呑みを口つけるくらいだった。
「あぁーっ! 痛いよっ。」
『どうしたらいい?家康っ!』
『どうしたらって、信長様が出来ることはあまり無いですけど…まぁ、腰をさすってあげてください。』
信長様が腰を撫でる。
「うっ、んあっ!ああっ。」
『、痛くても息は止めないで。』
「無理、もぉー、むり! あぁっ、いたーい!」
『家康様、陣痛が始まってからかなり経ちます。そろそろ動けなくなりますゆえ、移動を。』
『そうだね。、隣の産室に移動するよ。立てる?』
「たっ、立つのぉ?」
『動けば赤子が下がって産まれやすくなる。初産は産道も狭いから難産になりやすい。動けるなら動いて。』
「むりぃ。っ、あぁー。」
『行くぞっ。』
信長様が、私を支えて立たせる。
私は痛みの落ち着く合間で歩き、信長様に抱きついて痛みと戦う、それを繰り返した。
廊下を出ると、縁側には秀吉さん、光秀さん、政宗、三成くんとなぜか佐助くんがいた。
「なんで…」
『たまたま顔見に来たんだ。』
「そう。ああっ。」
『っ。頑張れよっ。』
『家康様っ、出産の書物ですっ。』
『今更、なんだよ?』
『お前、それ読んだのか?』
『はいっ、秀吉様!様へのお助けになれればと思いまして!』
『…そうか。なんか、なにも言わないことにする。』
『三成、お前にその知識必要ないから。、痛みが来たらしがみついていいから、ゆっくり歩いて。』
信長様に腕を引かれ歩く。痛みが襲えばしがみついて、引けば一、二歩進む。
用意してある産室までの距離が、永遠に続くような気がした。
『さぁ、もうすぐです。』
咲が額の脂汗を手拭いで拭う。小さく頷く私の腰に手を当てゆっくりと擦ってくれる。
『足元に気を付けろ。』
そう言って襖の敷居を、信長様に捕まりながら跨いだ時だった。
何かが弾けるような感覚と、内腿を伝う、なにか。
そして比べようの無い痛み。
「あぁっ。」
『?!』