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暁の契りと桃色の在り処 ー信ー

第16章 きみの手のひら


「信長様は、ありますか?」

『俺の夢と希望か?』

皆の視線が信長様へ集中した。

『俺の夢と希望は、身分の無い平和な世を作ること。そして貴様と産まれる子らを守ること。』

ぐすっ。

『秀吉、泣くなよ。』

『政宗。感動しているだけだ。泣いてねぇ。』

『そう言うあんたは、あるの?夢と希望。』

「えっ、私? そうだなぁ。
いい妻と母親になりたい。かな。あと、これからもずっと皆と一緒にいたい。」

『様らしいですね。素敵な夢です。』

『そうだな、お前らしい。』

三成くんと、目を赤くした秀吉さんが言った。

『たとえ奥州にいても、心はいつも側にいる。』

『…俺だって、すぐ駆け付ける。』

『だそうだ、お前はなにも心配するな。』

光秀さんの手のひらが頭の上に乗った。

『産まれてくる子は、どんな夢と希望を握り絞めてくるのだろうな。どんな夢と希望であれ、見出だせるような世を作らなくてはならぬ。』

信長様の言葉に、みんなが頷いた。
宴のような夕げはその後も穏やかに続き、私は少しだけ先に部屋に戻った。

ちょっとだけお腹が張って気持ちが悪かったけど、久しぶりに食べすぎたからかなって、そう思いながら床についた。





夜中、何故か目が覚めた。
隣を見ると、いつのまにか信長様が眠っていた。
布団から大きな体を半分出していたので、ゆっくり起き上がって布団をかけてあげた。

あれ?

何かが流れ出るような気がした。
慌てて布団をめくる。
薄暗い蝋燭の明かりでも、それはすぐにわかった。

「のっ、信長様っ。信長様っ。」

震える声で呼べば、すぐに目を覚ました信長様が不思議な顔をした。

『どうした?』

「あ、あの。…血が。」

『…血?』

「咲を、家康っ。血がっ。」

『…っ!腹は?』

「まだ、痛くないけど、張ってますっ。」

『直ぐに呼ぶ!落ち着け!』

信長様は、勢いよく立ち上がって襖を開けた。
そして、その音が響くのと同時に叫んだ。

『家康っ!咲!』


城内は瞬く間に慌ただしくなった。
咲と家康が直ぐに駆け付けて、診察が始まった。

『おしるしだ。陣痛の来る合図。だんだん始まるよ。』

信長様が私の手を強く握った。

とうとう始まる。きみの声を聞くために。



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