第16章 きみの手のひら
「信長様は、ありますか?」
『俺の夢と希望か?』
皆の視線が信長様へ集中した。
『俺の夢と希望は、身分の無い平和な世を作ること。そして貴様と産まれる子らを守ること。』
ぐすっ。
『秀吉、泣くなよ。』
『政宗。感動しているだけだ。泣いてねぇ。』
『そう言うあんたは、あるの?夢と希望。』
「えっ、私? そうだなぁ。
いい妻と母親になりたい。かな。あと、これからもずっと皆と一緒にいたい。」
『様らしいですね。素敵な夢です。』
『そうだな、お前らしい。』
三成くんと、目を赤くした秀吉さんが言った。
『たとえ奥州にいても、心はいつも側にいる。』
『…俺だって、すぐ駆け付ける。』
『だそうだ、お前はなにも心配するな。』
光秀さんの手のひらが頭の上に乗った。
『産まれてくる子は、どんな夢と希望を握り絞めてくるのだろうな。どんな夢と希望であれ、見出だせるような世を作らなくてはならぬ。』
信長様の言葉に、みんなが頷いた。
宴のような夕げはその後も穏やかに続き、私は少しだけ先に部屋に戻った。
ちょっとだけお腹が張って気持ちが悪かったけど、久しぶりに食べすぎたからかなって、そう思いながら床についた。
※
夜中、何故か目が覚めた。
隣を見ると、いつのまにか信長様が眠っていた。
布団から大きな体を半分出していたので、ゆっくり起き上がって布団をかけてあげた。
あれ?
何かが流れ出るような気がした。
慌てて布団をめくる。
薄暗い蝋燭の明かりでも、それはすぐにわかった。
「のっ、信長様っ。信長様っ。」
震える声で呼べば、すぐに目を覚ました信長様が不思議な顔をした。
『どうした?』
「あ、あの。…血が。」
『…血?』
「咲を、家康っ。血がっ。」
『…っ!腹は?』
「まだ、痛くないけど、張ってますっ。」
『直ぐに呼ぶ!落ち着け!』
信長様は、勢いよく立ち上がって襖を開けた。
そして、その音が響くのと同時に叫んだ。
『家康っ!咲!』
城内は瞬く間に慌ただしくなった。
咲と家康が直ぐに駆け付けて、診察が始まった。
『おしるしだ。陣痛の来る合図。だんだん始まるよ。』
信長様が私の手を強く握った。
とうとう始まる。きみの声を聞くために。