第16章 きみの手のひら
いつものように信長様の乾杯の合図から始まった夕げは、宴のように豪華な食事だった。
『好きなもの沢山作ったからな。少しずつ取り分けた。ゆっくり食えよ。』
「政宗、ありがとう。」
お膳に並んだ小鉢を咲が私に渡す。
あまり動かなくてもいいように、食事を手伝ってくれていた。
三成くんの食事の世話をする秀吉さん。
無心に、料理に唐辛子をふりかける家康と、その肩を抱く政宗。
その隙に、急須ごとすり替える光秀さん。
いつもの光景に胸が暖かくなった。
『、話がある。』
食事を味わっていると、隣で信長様が声をかけた。
なんだろう、と首をかしげると、広間は急に静かになった。
『貴様のいた世の出産などについて、佐助に聞いた。』
「そ、そうなんですか。」
『俺は、赤子が産まれたら【いくきゅう】とやらをする。』
いくきゅう
…育休?
「ええっ!の、信長様がですか?」
『あぁ。何もなければ、ひと月。貴様と赤子との生活を主とする。いくきゅう、とはそう言うものだろう?』
「その間は?政務とか、謁見とか。」
『主だった重要なものは全て片付けた。書簡確認や安土内の政務は秀吉と三成。外交は光秀。警備は政宗と家康に任せた。』
「へぇ。」
『そのために、今まで籠っていたがな。』
『いくきゅう、について聞いた時は驚いたが、でもほんのひとときでもご家族水入らずの時間を作って差し上げたかったからな。』
『兄様が仕事の割り振りをしたんだ。』
『お前はなにもしてないな。』
『皆いるから、元気な子を産めよ。』
『大丈夫。いざという時は、俺が付いてる。』
「みんな、ありがと。」
優しい眼差しの五人の顔をゆっくり見渡す。
信長様の暖かい手のひらが、私のお腹を撫でた。
『安心して産まれてこい。』
ぐにっ。
「あっ、動いた。」
『ほんとかっ!?』
『あぁ、返事をしたな。』
『触っていいか?』
『俺も。』
『私も宜しいですか?』
秀吉さんと政宗、三成くんがお腹をさわる。
『待ってるぞ。』
『楽しみだな。』
『どんなお顔でしょうか。』
三人が話すのを、家康と光秀さんが見守っている。
「光秀さんも触りませんか?」