第15章 幸せな孤独
『そう…、でしょうか。私は、様の我が儘も八つ当たりもさほど気にしてはおりません。ただ、私が様にして差し上げられることは少ないのではないかなぁ?と思うことはあります。
きっと、本当に望まれている事は叶えて差し上げられないのでしょうね。』
『…俺とさんは故郷に帰ることも、親兄弟に会うことも永久に出来ません。
さんが、産まれた子を親に見せてあげることも、子育ての不安を聞くことも…出来ません。』
佐助様のこの一言は、息が詰まるようでした。
『俺は割りきってしまった部分もあるけれど、これから母になる
さんは、急に寂しさが襲ったり孤独を感じたりする事が多々あると思います。』
『信長様も、他の武将様もご存知なのでしょう?』
『皆さん知っています。我が主君も。』
『私は、なにが出来るでしょうか?』
『今のままでいいと思います。もっと、我が儘を言わせてあげてください。産まれてくる子を共に喜んで、子育てを支えて…喧嘩して仲直りして、。…うん、そう。親子みたいに。』
『おや、こ。』
『嫌ですか?』
『いえ、畏れ多くて…。信長様の、天下人の奥方様ですし。』
『さんは、そんな事考えてないと思いますよ。何時もじゃなくて、二人でいる時くらいは、そんな関係でもいいんじゃないですかね。』
『様が穏やかに過ごせるなら、やってみます。』
『えぇ、お願いします。』
佐助様の方をむくと、それは柔らかい面差しでした。
この方も様をお慕いしているのだと、すぐにわかりました。
茶屋の店員が佐助様に団子を包んだ物を渡しました。
『土産も買えたんで、そろそろ行きます。
これ、さんが言っていた珈琲に似せたものです。湯に溶かして飲んでください。玄米を煎って作っただけですから、悪いものではないし、俺が咲さんに渡すことも伝えてます』
そう言って佐助様は、私に小さな袋を渡しました。
『今日はありがとうございます。』
『いえ、話せて良かったです。また。』
私が深くお辞儀をすると、佐助様も頭を下げられ人混みに消えて行かれました。