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暁の契りと桃色の在り処 ー信ー

第15章 幸せな孤独


『幸が使ってる家にあるから、すぐ渡せるよ。
…そうだなぁ。咲さんに渡しとく。』

「え?」

『さんが好きなものを教えて、仲直り、したら?』

「そう…、だね。」

『じゃあ、俺はこれで。産まれる前に、もう一回くらい会えたらいいけど。』

「うん。そうだね。ありがとう!」

『じゃ、また!』

佐助くんは、石垣の方に走り始めて、ひょいっと飛び越えて出ていく。
秀吉さんに怒られちゃうんじゃないかな、って思いながら私は見送った。





【城下にて 咲 目線】

『咲さん。』

城下での所用を終えて、城に戻る帰り道でした。
振り返ると夕焼けに変わる陽射しの先に、緑の装束を纏った男の人が立っていました。
曲者かと一歩引いたとき、聞き慣れた名前を耳にしました。

『あ、俺です。佐助です。…越後の軒猿の。』

『あぁ、佐助様。お久しぶりです。今日は?』

『謙信様の書状を届けに来ました。さっき、さんと会ってきたんです。』

『様と。そうですか。』

少し話をしたい、そう思いました。
様と同郷の佐助様。
この方なら、…さまの抱える言葉にぬらない不安を
わかるかもしれない。そう思いました。

『あのっ、…。』

『お時間、今ありますか? そこの茶屋の団子がうまいんです。』



なにから話せばいいのやら。
話がしたいと思っていたのに、いざ隣に座る佐助様を見ると緊張してしまっておりました。
私は、ただ手元の湯呑みを握りしめました。

『うまいですよ、どうぞ。』

『…佐助様は、様と同郷なのに越後の忍なのですね。』

『あぁ、まぁ、色々ありまして。』

初めてお話しするのに、棘があったかしら。
あぁ、なにから話せばいいのやら…
ふぅ。とため息を付いて、また湯呑みを覗いた時でした。

『さんは、幸せですね。』

『えっ。』

『さっき、咲さんに我が儘を言って八つ当たりをした、と話していました。
俺は、主君と忍の関係や、戦友としての仲間との関係ならもってますけど、家族のような関係は持っていません。
我が儘や八つ当たりが出来るなんて、羨ましい。』

佐助様は、メガネをくっと持ち上げて空を見上げられました。










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