第15章 幸せな孤独
【咲 目線続き】
湯に溶かして飲む玄米を煎って作った飲み物。
それは美味しいのでしょうか?
夕暮れに変わる空を見上げながら、いつ召し上がっていただこうか考えました。
飲みたがっておられる物ならば夕げの後はどうだろうか。
飲み物なら、茶菓子もいるのだろうか。
今日は特別に…と城への帰り道、菓子屋に寄りました。
練りきりが並ぶなかで、小さな桜をあしらった和菓子を見つけました。
迷わずにそれを買い、急いで帰りました。
あの方の笑った顔が見たいと願いながら。
※
【視点】
今日も夕げは一人だった。信長様は忙しくて、咲側にいてくれる中で食べた。
我が儘や八つ当たりを言ってしまった手前、あまり話せなくてどうしようか悩んでいた頃だった。
目の前にお盆にのった湯呑みと桜の和菓子が用意された。
『玄米珈琲、です。』
「あっ…」
『城下で佐助様に会いました。初めて作りましたし、一応毒味もしました。不思議な味でした。茶請けがいるのかと、城下で見つけた和菓子も用意しました。今日は特別に。』
「毒味って、咲が?」
『えぇ。不思議な味ですが、不味くはないですね。』
「ふふっ。懐かしい。頂きます。」
口に含んだ玄米珈琲は、慣れ親しんだ珈琲の味とは少し違ったけれど、私の心の隙間を埋めるには十分だった。
「咲、…昼間はごめんね。」
『お味はいかがですか?』
「美味しい、ちょっと違うけど。…困らせてごめんなさい。」
『気にしておりません。どんな様でも、私はお側におります。こうやって、様の故郷の味がわかって良かったと思います。』
「咲…」
『我が儘も八つ当たりも、なんでも仰ってください。私も、色々とお教え致しますし、怒りますから。
お母上にはならなくても、頼って甘えてくださいませ。』
「さくっ、ありがと。」
涙を流す私の背中を咲が優しく撫でた。
また一口含んだ玄米珈琲の味は、やっぱりちょっと違ったけど、とても落ち着いて、私の心を満たしていく。
私は一生この味と、この時の咲の優しい笑顔を忘れないだろう。