第15章 幸せな孤独
「もう桜の時期かなぁ?」
『そろそろでしょうかね。まだ、城下や城の庭の桜の木は蕾でしたが。』
「城下の桜並木もきれいだよね。」
『そうですねぇ。』
「満開の桜の下で食べるお団子、美味しいよね。」
『そうですねぇ。』
「…。はぁ。」
『様?どうかされました?』
「咲、そうですねぇ。ばっかりだから。」
『もうすぐ産み月になります。まだ薄氷も見られますゆえ、出歩くことは出来ません。何かあったら…』
「信長様と家康に許可をもらうからいいもん。」
『もらえますでしょうかね?』
「…咲。意地悪。信長様も家康も、いいって言わないってわかって言ってるでしょ。私ひとりで出掛けられないし。」
『意地悪、というか、今のお体やお立場をご理解頂いて…』
「ご理解頂いて… なに? この部屋から出るなって?」
『…っ。様。』
「私、もっと自由にしたい。赤ちゃん産む前に一人で出来ることしたいよ。まだ8ヶ月だよ?」
『ですが、今までのようにお好きな時間に出歩くわけにはいきません。私と弥七、吉之助だけでは許可がおりません。秀吉様や光秀様などの武将様の同行が必要です。』
「なんで?大袈裟だよ。」
『大袈裟ではありません。信長様の奥方様であり、身重の体です。もはや、様の御命だけでなく、身籠られている赤子の命ですら、狙われる可能性があるのですよ。』
「…そんなっ。」
『様。若君であれ姫様であれ、御産みになられるのは間違いなく信長様の血筋。敵対する相手から見れば、間違いのない標的となります。
そして、御生母になられる様も。
これからは、今迄のように自由に過ごされることは出来ないとご理解けださい。』
「…私、姫じゃないもん。」
『また、そんな事…』
「姫じゃないもん!500年後の平成に産まれて、普通に育っただけだもん。」
『ですが今は、信長様の御正室にございます。』
「…っ!意地悪な咲なんて嫌い!」
『そうですか。』
淡々と返事をする咲が、段々腹立たしくなってきて、私は立ち上がり襖を開けた。
「どちらに? 厠ですか?」