第15章 幸せな孤独
『まぁ、様っ!そのような格好で、足元を冷やしてしまいます!』
「冷えないよ。ほら、見て。ちゃんと膝掛けかけてるし。今日はあった暖かいから大丈夫。」
『もう八月(やつき)を越えております。ご無理をなさっては…。』
「無理って、病気じゃないんだよ?私の時代だとまだ働いてる人もいる時期…」
『様の時代はこの時代でございますゆえ!』
「咲、…驚かなくなってきたね。慣れてきた?」
『よくわかりませんが、色々考えました…。ってそれはそうと!軍議がそろそろ終わります。皆様が来られますよ。』
「大丈夫だよ。信長様も秀吉さんも、三成くんも最近また忙しそうだし。光秀さんは視察ばっかりでしょ。政宗は、産まれる前にって一月程奥州に戻ったし。家康くらいだよ。毎日診察に来てくれるの。」
『では、家康様に叱られますよ。ほらっ、お部屋に御戻りください。』
「はぁー。咲は厳しいなぁ。」
私は、重くなったお腹を抱えながら立ち上がった。
座っていた縁側から自室に向かう。
立った数歩の距離を移動して、積み重なった座布団に座り直した。
謙信様や信玄様と過ごしたひとときから、既に一月が経って、私は寝起きを自室に変えた。世話役もお茶運びも止められて、限られた時間に産着を仕立てること以外は、ぼーっと過ごす事が多くなった。
現代なら、まだ産休には早すぎる時期なのに、御世継ぎを産む私は特別待遇になった。
私の部屋の隣には産室が準備されて、咲と秀吉さんの決めた世話係が、もうすぐ挨拶に来るらしい。
確かに、胸の真下から膨らんだお腹は、肺や胃を圧迫していて、少し動くと息切れもしやすくなった。仰向けにも寝れなくなったし、食事もあまり食べられなくて、少しずつに分けてもらっている。
それに、家康と咲の厳しさが増すようになった。
冷えるから縁側に座るな。
庭は転ぶから出るな。
針仕事は半刻以上はやりすぎ。
甘味は食べすぎるな。
はぁ。
散歩したい。日向ぼっこしたい。
お団子食べたい。
…タピオカ飲みたい。ポテチ食べたい。
珈琲、飲みたい。
妊娠前より増えたホームシック。
信長様との時間が減ったからなのか、妊娠して不安定になったからなのか。
急に悲しくなったり、イライラするようになってきて、自分でも自制が難しくなってきた。