第14章 春の輪廻
『あんた、こんなことする人いないからね。忍は、滅多に顔を晒したりはしないんだ。この先何処かで見かけても声はかけちゃ駄目だから。』
「わかった。」
『軒猿も一緒だからね。』
そう言うと、家康は右手を頭の近くに挙げた。
静かに足元の草が踏みしめられた音がした。
「あっ、話し掛けていいの?」
『じゃあ、なんで呼んだのさ?』
「そっか。…あのっ。です。はじめまして。今日は、わざわざありがとうございます。」
家康の忍達は静かに頭を下げた。
『この間の夜襲や奇襲で怪我をした方はいなかったですか?』
『…ございません。』
どこからか声がした。
「良かった。皆さん、これからも安土と家康を宜しくお願いします。」
『はっ。…奥方様。』
「っ、はい。」
『御出産後は、我らも御世継様と奥方様を命を懸けて御守り致します。』
「ありがとうございます。でもっ、…必ず生きてくださいね。」
『はっ、はい。有り難きお言葉、感謝致します。』
『…そろそろ、いい?』
「うん。ありがとう。」
『ご苦労、下がれ。』
『はっ!』
静かに家康の忍が消えていった。
『次は俺か?』
「政宗!」
家康とすれ違うように政宗がやってきた。
『お前、本当におもしれぇな。…おいっ。出てこい。』
政宗の声にあわせて、また草が踏みしめられた音がした。