第33章 ○その個性の名は
入学してから私が片思いしている人。
まさかこんなところで会えるなんて思ってもみなくて、思わずドキッとした。
「癒月さん、この電車だったんだね」
『え、あ、う、うんっ…//』
こんな至近距離で顔なんて見れなくて、あげた顔を少しずつ落とした。
『…うわっ』
だけど更に人が入ってきて、私は押されるまま、緑谷くんの胸に飛び込んでしまった。
『…!?あ、ああのごめんなさいっ///』
「だ、大丈夫だよ、この状況じゃ仕方ないから、癒月さんは大丈夫?」
『…う、うん、大丈夫っ…』
内心は全然大丈夫じゃない。
好きな人が目の前にいるだけでも恥ずかしいのに、不可抗力とはいえ、触れてしまっている。
平然なんて保ってられなかった。
そんな中、発車ベルが鳴って電車が出発した。
少しだけ離れようと身をよじってみたけど、緑谷くんの体温を更に感じるだけでどうにもならなかった。
「ご、ごめん、癒月さん…」
何故か申し訳なさそうに声を出す緑谷くん。
「嫌かもしれないけど、出来れば動かないで、欲しい…//」
なんだか苦しそうに言う緑谷くん。
私はこくっと頷くことしか出来なかった。
なんだかいつもより駅と駅の間が長く感じて、ドキドキと自分の心臓の音がやけにうるさい。
緑谷くんにも聴こえていないか、顔を見てみたいけど顔をあげられるはずもなく、そのまま緑谷くんに触れている自分の手をみていた。
早く駅に着いてと願う反面、もう少しこのままでいたいとも思っていた。
その後、会話も無いまま、電車は駅に到着した。
「ごめん、苦しかったよね、癒月さん、大丈夫?」
『うんっ、大丈夫だよっありがとう、緑谷くんっ』
やっと解放されて緑谷くんから離れる。
少し寂しかったけど仕方ない。
じゃ、じゃあ、また教室で!、って緑谷くんは先に行ってしまった。
手にはまだ緑谷くんの身体の感触が残ってて、ぼーっとしていると、お茶子ちゃんに呼ばれた。
「リルルちゃん!どうしたん?ぼーっとして」
『え? な、なんでもないよっ、早く行こ!』
緑谷くんの心臓も早かったのは気のせい、かな…?
そんなことを思いながら私はお茶子ちゃんと一緒に雄英高校の校門をくぐった。