第33章 ○その個性の名は
だけど、衝撃はいつまでも来なくて、おそるおそる目を開けると、目の前にはなぜか緑谷くんの顔があった。
『…えっ、えっ!?///なんでっ//』
「癒月さん大丈夫?、これ、かっちゃんの攻撃だよね」
『…う、うんっ// そ、そうだけどっ//』
まったく、かっちゃんは…、って言いながら地面に降りる。
「びっくりしちゃったよ、癒月さんが飛んでくるんだもん」
『…ご、ごめんね、ありがとう!助かりました…///えっと、もう下ろして大丈夫、だよ?//』
「ちょっと、いいかな?」
『…えっ? うわっ///』
緑谷くんは急に飛び上がって人気のないところへウサギのように飛んでいく。
着いたのは、廃墟的な建物の中。
『み、緑谷、くん?// なんでこんなところに…』
「話したいことがあってー」
「風女ー!!!どこ行ったぁあ!!!」
緑谷くんの話を遮るくらいの爆音と叫び声。
同時に緑谷くんの短いため息。
「ごめん、こっち」
『…へっ? きゃあっ//』
その辺にあったロッカーみたいな箱に一緒に入る。
『…みみみ緑谷くんっ///』
「…しっ!かっちゃんが来る…」
緑谷くんの手で口を塞がれる。
コツコツと足音がして、止まる。
またコツコツと足音がすると、その音はだんだん遠ざかっていった。
「行ったみたいだね」
『…っ//』
「ごめんね、一旦出ようか」
『う、うんっ///』
「あ、あれ?」
『どうしたの?』
「どうしよう!開かないみたい…」
『…えぇっ、ほ、ほんと!?』
「誰かがくるまで待つしかないかな…」
『…そ、そんな…』
朝の満員電車のような密着感。
「あのさ、癒月さん、…僕の勘違いならいいんだけど、今日なんかあった?」
『へ?…な、なんで?』
「いや、何もないならいいんだけど…」
緑谷くんは、勘がいいからもう察しはついてるかもしれない。
それにあの今朝の女の子の個性が本当なら、もしかして。
私は勇気を出して言ってみた。
『あ、あのね、緑谷くんっ…』
「…どうしたの?」
『…わ、私ね、ずっと、ずっと…』
「…待った…」
『…っ!?///』
緑谷くんの人差し指が私の唇に触れたから、そのあとの言葉が出なかった。