第27章 翳り(かげり)
***聴視点***
動きやすい服を着て、自宅の鍛錬場に出る。
上にぐっと伸びながら深呼吸をしたところで、紺兄がやってきた。
「聴、お疲れさん」
『お疲れ~、紺兄~。今日もよろしくね~』
「よろしく頼むのはこっちだろ、先生?」
『あははは!紺兄から先生って呼ばれるのは、むずがゆいな~』
何を隠そう、灰病治療後のリハビリである。
紺兄は今日まで地道にリハビリをこなし、発火は問題なく行えるようになった。
あとは実践の中で火力のさじ加減を覚えるだけである。
…だけである、とは言ったが、これが案外、人によって得手不得手が出る。
以前と同じ感覚で発火能力を使って、灰病を再発されては困るのだ。
そうならないために、今の身体で出せる火力を見極めつつ、その火力で戦うことに慣れてもらわなければならない。
『その火力はまだ早い!』
「!おう!」
発火能力ありの組手をしながら、常に紺兄の気の流れを確認してボーダーを超えたら注意。
あくまで能力の邪魔はせず、観察に徹し、けれども組手の手は緩めない。
普通の相手なら、なんてことはないのだが…、相手が紺兄となると流石にこっちも必死だ。
「はぁっ!」
『っ!なんのっ!』
そうしてしばらく。
紺兄の右ストレートを両腕でガードし、後ろに吹き飛ばされたところでストップをかけた。
『いや~、さすがに痺れるね~』
「だいぶ慣れてきたからな」
『心配はしてなかったけど、調整が上手くて何よりだよ~』
生き生きとした表情をしている紺兄を見て、内心で苦笑する。