第26章 放置は悪手
「あぁ?なんだそりゃ」
「彼女の名刺だよ。君のトランプと一緒にもらったんだ」
いや、俺が聞きたいのはそんなことじゃねェ。
かすかにだが椿油の香りがしやがる。
ヴィクトルの手から紙切れを抜き取り、じっくりと観察してニヤリと笑う。
「何なに?」
「いいから見てろ」
紙切れを消し炭にならないように注意しながら炙った。
「え、えぇ!?ちょっと、何して…って、え…」
徐々に現れる、不自然な焦げ跡にヴィクトルが黙り込む。
…チッ、ご丁寧に暗号化されてんな。まぁ、そこまで難しいもんでもねェが。
頃合いを見計らって炎を消した。
「これは…」
「ハッ!粋な真似しやがる」
情報の渡し方からして、気づいても気づかなくても、どっちでもいいってか?
こういうオイシイ情報を隠し持ってるから、あいつは放っておけねェ。
「いやぁ、これは是非とも、オトモダチになりたいなぁ…。ねぇ、ジョーカー、彼女をこっちに誘う気はないの?」
「あいつは興味がないことには動かねェ。もう少しこっちに興味をもったら、だな。これはさしずめ、売られた喧嘩を買った、ってところだろ」
喧嘩?とヴィクトルが聞き返してきたため、煙草の煙で○×を書いてやる。
「あぁ、浅草か…。つくづくあの町は敵に回したくないねぇ」
あぁ、まったくだ。