第26章 放置は悪手
***ジョーカー視点***
いつもの部屋でソファーに座り、手元のトランプを眺める。
「気配が混ざってる、か…」
ミヤの言葉をなぞれば、自然と口角が上がった。
あいつは、アレの存在を知らねェはずだ。
それなのに、何かしらを感じ取り、避けて見ないようにしてやがる。
「見てて飽きねェんだよなぁ」
「何が飽きないって?」
「おう、おかえりぃ」
「ただいま。あー…、疲れた」
天才科学者サマはお疲れのようで、向かいのソファーに沈み込んじまった。
「悪魔は飲み込みが悪かったか?」
「いーや、シンラくんはさすがだったよ。問題は」
そう言ってこちらに突き出されたのは1枚のトランプ。
「彼女、何者?」
「ハッ、やっと接触したか」
数日前、ミヤのところに置いてきたそれは、意図したルートで返ってきた。
「第8で聞いてるだろ?」
「炎で治療する能力、とは聞いてるけどさ、そんなあっさりしたもんじゃないでしょ、絶対」
ヴィクトルは胡散臭そうにこちらを見る。
「お得意の情報網は?」
「ヒットなし。じゃなきゃ君に聞かないよ」
まぁ、俺でも追うのに苦労したからな。
「“神の気まぐれ(ウィムオブゴッド)”。噂くらいなら聞いたことあるだろ?」
「え、あぁ、一昔前に流行ったアレかい?およそ半年に1回、毎回違う病院で、難病患者が奇跡的に回復するっていう…」
条件反射でしゃべってただろうヴィクトルが、まさか、という顔になった。
「くくっ。そのまさかだ。タネも仕掛けも簡単。全部あいつの仕業だ」
「えぇぇ…。それはまた、とんでもない…。でもそれって彼女に何かメリットある?自分が何者かも語らず、困ってる人を助けるだけ、ってとんだ偽善者じゃん」
「昔、似たようなことを本人に言ったことがあるが…。“検体が欲しい。だが組織に縛り付けられるのは御免だ。そうなるとこれが1番手っ取り早い。偽善?冗談だろ?世の偽善者に謝ったほうがいいんじゃねェか?”って鼻で笑われた」
「ブッ!ハハッ、なるほど。君が面白がって観察するわけだ」
ヴィクトルはそう言って笑うと、一切れの紙を取り出して眺める。