第20章 月夜の密会
「アンタはつくづく飽きないな、ミヤ」
目の前のジョーカーは妖艶に笑っている。
「匣の中身に興味はないくせに。その手はいくつもの鍵を玩ぶ」
言われた言葉に思わず息を呑んだ。
「事態が動いたとき、アンタがどう動くのか楽しみだ。…少なくとも俺は、こっちに堕ちてくればいいのに、って思ってるぜ?」
唖然と見上げていれば、ジョーカーの影に完全に覆われ、目の前に黒いコートが迫る。
あ、煙草の匂い、と思ったときには、つむじ辺りに柔らかい感触がしていた。
再び見上げた口元は、ごちそうさん、と紡ぐと闇へと消える。
その場には呆然とした私だけが残された。
…相変わらずミステリアスな消え方するなぁ。
……じゃなくて。
え、もしかして、キスされた?
髪へのキスは、なんだっけ、思慕、だっけ。
んー、今度から少し気を引き締めたほうがいいかな。
……うん、それはそれとして。
匣ってパンドラの匣だよね?
えー、でも、私的なパンドラの匣とジョーカー的なパンドラの匣って別物なんじゃないかなぁ。
……いや、問題はそこじゃなくて。
どうにも脳内が混乱しているが、大事なのは、私の知らない何かがある、ってことだ。
話の流れ的に、気配を探ったときに感じた違和感を突き詰めたらアウト、か。
…面倒な爆弾を落としていってくれたなぁー。
私はため息をつきながら、切り替えよう、と片付けに入る。
すると、ジョーカーの使っていた盃の下にトランプが置かれているのに気付いた。
柄は…鬼札(ジョーカー)だ。
伝言などはない。
私は不思議に思いながらも、そのカードを懐にしまったのだった。