第19章 灰病は不治の病ではない
***紺炉視点***
今日は、なんだか知らねェが、紅の様子がおかしい。
朝、俺の顔をじっと見て微動だにしなかった。
何かあったのかと聞いても
「…なんでもねェ」
と言って後頭部をかきながら、どこかに行っちまった。
昼、妙に視線を感じるな、と思って振り返れば、紅と目が合った。
俺が口を開こうとしたら、決まりが悪そうに目をそらされた。
「なぁ、聴。今日の紅、なんかおかしくねェか?」
『うん~、おかしいねぇ~。まぁ、明日になったら戻ると思うよ~』
聴は何か知っているようだったが、含み笑いをするばかりで、何も教えちゃくれなかった。
夜、夕餉の時間。
はた目にはいたって普通だったが、俺には分かった。
紅は妙にそわそわしてやがった。
いよいよ首を傾げたが、聴が明日には戻る、と言ってたからな…。
そして今、灰病の治療の時間。
目の前にいる紅は、今日1日の挙動不審が嘘だったみてェに大人しい。
…が、いつにも増して真剣な面をしてやがる。
やけに気合が入ってんな、と思ったが、あえて口にしないまま約1時間。
『っし!紅~、確認して~』
という俺の背後にいる聴の声で、紅の雰囲気がガラッと変わった。
足早に俺の背後に移動する紅と、のんびりと俺の前に座る聴。
事態についていけない俺をよそに、聴は紅のほうを見て、少し笑いながら目を細めた。
つい後ろが気になって、振り返ろうとした俺は
『紺兄、ひとまずだけど、完治おめでとう』
ニッと笑う聴に、目が釘付けになった。
は…?
いま、なんて…?
完治って言ったのか…?
完全に世界から孤立していた俺は、聴の隣に紅が座ったことで正気に戻る。
「べ、べに…」
前髪をかきあげた紅は、息を吐き出し、その手を離すと
「先に俺たちだけで祝杯でも挙げるか」
と最近見た中では1番の笑顔で言い放った。
…あァ?酒の味?俺が言い表せるだけの頭をもってると思うかい?