第18章 どうか隣を譲らないで
「…おめェには本当に感謝してる」
『ん?急に改まってどうしたの~?』
手元の湯飲みを眺めながら、遠い目をする紺兄。
昔から、紺兄がそういう目をするときは、紅が絡んでいると私は知ってる。
「紅が甘えられるやつなんざ、今となっちゃお前ぐらいだからな」
ほら、やっぱり紅のことだった。
しかも、答えのようで答えじゃないし。
『…紅もいろんな意味で大きくなったもんねぇ。…でも、まだまだ紺兄なしじゃやっていけないでしょ~、あれは』
ふふ、と笑えば紺兄は少し目を見開いた。
『それこそ来ないよ、紺兄が必要なくなる日なんて。紺兄もさ、紅が大事なのはわかるけど、その紅が何よりも大事にしてるのは紺兄だって、いい加減、自覚もちなよ?』
この兄貴分は本当に紅のことしか考えてないから。
それなのに、紺兄のことを心配する紅の気持ちは、軽く扱うから。
…男の人って、みんな、自分の信念を貫くことにためらいがないものなのかな?
『…って言ってもどーせ無理なのは知ってるからねぇ。これからは好きに無茶なんてさせないから~。私は紅に甘いんだよ~?』
そう、ニヤリと笑って見せれば
「おっかねぇな」
と苦笑する紺兄。
でもその顔はどこか晴れやかで、ようやく収まるところに収まりそうだと息を吐いた。