第18章 どうか隣を譲らないで
***聴視点***
紅のおかげで、私はようやく、紺兄の治療を不安なく進めることができるようになった。
紺兄にもちゃんと話し合った内容を説明して、快諾をもらったし。
町の人も、紅の言うことなら、きっと聞いてくれるでしょう。
『紺兄~、入るよ~』
右手にお盆、左手に書類を持って紺兄の部屋の前で声を上げた。
左手で襖を開け、中をひょこりと覗く。
紺兄は少し疲れた様子でこっちを見ていた。
『お疲れ~。お茶にしない~?』
「賛成だ。ちょうど休憩にしようかと思ってたとこだ」
紺兄が小さめの机を広げ始めたのを見て、部屋の中に入る。
『っと、その前に~…。はい、頼まれてた書類だよ~。こっちの書類は少し急いだほうが良いかもねぇ~。こっちは間違いがあったから修正しといたよ~。んで、こっちのは紺兄と紅の確認がいるからよろしくねぇ~』
実は、あまりにも暇だったので、書類のお手伝いを申し出たのだ。
…さすがに、大量の書類の前で頭を抱えている紺兄を、放っておくことはできなかった。
完成した書類を軽く広げながら補足して、ほい、と渡す。
紺兄がそれらにざっと目を通した後、ため息をついた。
『ありゃ?間違いでもあった~?』
「いや、ねェよ。文句のつけどころのねェ仕事っぷりに、惚れ惚れしてな」
『あはは~。紺兄も苦労してるねぇ…。そんな紺兄にはこれを進呈しましょ~』
なんてふざけたことをいいながら、お盆に乗せてきた2色の羊羹を机に置く。
途端に紺兄の目が輝きだした。
『餡子と抹茶の羊羹で~す。疲れたときには甘い物だよねぇ~』
緑茶を湯飲みに注ぎ分ければ完成だ。
ありがとな、と笑う紺兄に、いえいえ、と笑い返して、2人でお茶を啜った。
うん、お茶も羊羹も美味しい。