第17章 気がかり
『ねぇ、紅』
呼びかけられたことにハッとして、視線を上げてみれば、どこか思案顔の聴がいた。
胸騒ぎがしやがる。
『私がもたらす利益と、私がこの町にいることで発生する不利益。ちゃんと頭として見極めて、不利益のほうが大きくなったら私を切り捨てるんだよ』
案の定、くそみてェな話をしてきやがった。
反射的に聴の左腕をつかみ、ギロリと睨みつける。
「てめェ、また消えるつもりか?あァ?」
『私にその意思はないって言ったでしょ~』
諌めるように空いている右手で頭を撫でられた。
ガキ扱いするなと右手も封じる。
『前に言ったでしょ~?相談に乗って~って。紺兄の灰病は完治させてみせる。だけど、それをやったのが私だと公表するか否か、これが問題でね~』
中腰の俺よりも視線が下になるように、ゆっくりとかがむ聴。
「あァ?おめェがやったことを伏せようなんざ、無理な話だろ」
『これがそうでもなくてね~…。皇国には前例があるんだよ~。ある晩、突然病が治ったっていう不思議案件が、何件も』
「なんだと?」
『神の気まぐれが起こした奇跡だ~、って言われててね~。まぁ、それが浅草で起こったとなると聖陽教が黙ってないかもしれないけど、聖陽教がうるさいのはいつものことだしね~』
にわかには信じられねェ。
皇国の連中、頭の中がお花畑なんじゃねェのか…?
『欠点としては~、紺兄の身体を調べたがる皇国の連中が来たりとか。あとは、例えばシンラくんが灰病になったときに治してあげられないとか、その辺かな~』
つらつらと話す聴は、めんどくさそうに明後日の方向を見る。
『逆に私がやったことを公表すると~…。私のことを調べたがる連中が来たり、自分も治してもらおうと皇国の灰病患者が来たり、“皇国における医療は聖陽教会にのみ許された神事である”とか言って聖陽教が来たり。…まぁ、どっちにしてもうるさくなることは確定なんだけどね~』
言ってる聴も、聞いてる俺も、苦虫を噛み潰したような面になった。