第17章 気がかり
***紅丸視点***
いいのが腹に決まり、後ろに吹っ飛んで倒れた。
負けたままなのは気に食わねぇが、聴が相手なら受け入れられる。
身体の充足感に従って空を見上げていれば、聴が家に入っていった。
浅草を、この町を背負って立つと決めた。
それが嫌なわけじゃねぇ。
そうなれるように力を尽くしてきた。
今度は俺が守る、と思うくらいには、紺炉にも火消しの仲間にも町の連中にも、情を注いでもらったんだ、当たりめェだ。
ただ、どう足掻いても、まだまだ俺は未熟で力不足。
紺炉も、…先代も、こんなもんじゃなかった。
焦りからくるイラつきなんざ久しぶりで、何にも手につかねェ。
こんな時、昔の俺はどうしていたかと考えて、聴に思い当たった。
即行動でこいつの家に来てみたが、正解だったらしい。
ん、と当たり前のように差し出された水を飲み干し
「…あぁ。清々した」
と言葉にすれば、完全に溜飲が下がった。
『あ~…、さすがになまってるなぁ…』
俺のことは完全放置で伸びをする聴を視界に入れる。
聴が帰ってきて、灰病の次に思い出したのが組手だった。
10年前ならいざ知らず、今なら当然勝てるだろうと挑んで普通に負けた。
訳が分からねェ。
紺炉のやつもさすがに驚いてやがった。
『いやぁ、鍛錬続けといて良かったぁ~』
と笑ったこいつに腹が立って、ムキになった俺は悪くねェ。
さすがに負け続けることはねェが、こいつの親父が、聴が女であることを惜しんだだけはある。