第17章 気がかり
***聴視点***
鍛錬場に組手の音が響く。
攻め込んではいなされ、攻め返されれば威力を殺したり流したり利用したり。
炎を一切使わない、純粋な組手。
紅のほうが力はあるけど、上手くさばいて利用すれば私でも対等にやれる。
10年前は父から直々に教えられていたし、私が4つ年上なのもあって、負けることはなかったけど。
最近は勝ったり負けたりを繰り返すようになっていた。
紅が強くなっているのを実感できて嬉しい反面、少し悔しい。
あぁ、でも今日は…なんか、むしゃくしゃしてるねぇ…。
吹っ切れたんじゃなかったの、と空いている腹に蹴りを入れれば、後ろに吹っ飛んで倒れた。
そのまま息を整えるばかりで、立ち上がる気配がない。
今日はここまでかな、と私も息を整えながら、汗をぬぐった。
のどが渇きを訴えたので、水を取りに家に入る。
紅の分の水も持って鍛錬場に戻れば、紅は倒れたままだった。
顔を覗き込みながら、ん、と水を差し出せば、むくりと起き上がる。
水を受け取り一気飲みする紅を見ながら、自分も口をつけつつ、紅がむしゃくしゃしていた理由を考えた。
………が。駄目だ、分からん。こういうのは紺兄の役回りだ。
頭を悩ませている私を他所に、はぁーっと息を吐き出した紅は
「…あぁ。清々した」
と言った。
あ、そう。それは良かった。