第17章 気がかり
***聴視点***
第8が帰ってから数日。
紺兄の治療は毎晩、およそ1時間行っている。
発火能力を無理に使ったことで、治療する前よりも悪化していたのには、さすがにニッコリと笑って嫌味を言っておいた。
ついでに言えば、今の私の力では、灰病を患う前の火力には戻せそうにない。
そう紺兄に伝えたのだけど、後悔している様子は一切なかった。
ホント、紺兄は紅が絡むと見境がない。
紺兄の代わりなんて、誰にも務められないのに…。
はぁ、とため息をつきながら、母の残した医学書を閉じた。
私の母は薬師だった。
薬師としての仕事をこなしながら、父の灰病をどうにかして治せないかと、必死だったのを覚えている。
私はどうにか、命に関わらないところまでなら治せるようになったけど、以前の生活を取り戻せるかというとそうじゃない。
ここ最近は、母の残したものの中に手掛かりがないかと、実家に入り浸り、片っ端から読み漁っていた。
医学書を棚に戻し、ぐっと伸びをしながら母の部屋を出ようとしたところで、空気が揺れる。
ん?と思いながら外を見れば、纏が1本突き刺さっていた。
ちなみに私の実家は、弔いで壊されると困るものが多いからと町のはずれにある。
さて、そんな我が家の鍛錬場に纏が突き刺さる理由…それは。
ひょいっと廊下に顔を出すと、少し俯きながらずんずんと歩いてくる紅の姿。
『急患…じゃなさそうだねぇ。場所を貸せばいい~?それとも相手が必要~?』
「…少し付き合え」
『ん、了~解。着替えてくるから先に行っといて~』
紅が、私または人目につかない鍛錬場、あるいはその両方に用事がある場合である。