第16章 消防隊に入らない理由
『うん?』
「え、えっと、その」
「なんでアンタは消防隊に入らないんだ?」
「はぁ!?今、私が質問しようとしてただろ!!」
言おうかどうしようか迷っている様子のタマキちゃんを遮って、アーサーくんから至極まじめに質問された。
遮られたタマキちゃんは、アーサーくんを揺さぶっている。
…うん、すごく既視感。
そういえば、オウビさんから聞かれた時にはシンラくんとアーサーくんはいなかったっけ。
成り行き、と再び口にしようとして、紅がこちらをじっと見ていることに気づいた。
え、もう酔い覚めたの?
この状況で成り行き、と済ませてしまうのはマズイと本能が告げる。
『あー…昨日も同じ質問されたから考え直してみたんだけど…』
私の前置きに紺兄までこっちを見てきた。
『…私はね、救いようのないくらい我儘だから、自分が助けたいと思える人だけを助けたいの。医者失格だな、って我ながら思う』
自分で言っていて、こいつが医者で良いのか?と疑問に思うレベルだ。
『私が消防隊に入ることで、紅や紺兄や浅草のみんなが助かるって言うなら、喜んで入るよ。でも今のところ消防隊に入る利点もないからね』
そもそも私が医者を目指した理由は、自分が力になれる分野が欲しかったからだ。
腕っぷしにもそこそこ自信はあるけど、この浅草じゃあ、それは紅の役割。
紅のサポートなら紺兄が適任。
そして火消しは男の花形。
私は自分の能力で2人を手助けして、そうすることで隣に立ちたかっただけ。
だから特殊消防隊には興味がない。