第14章 信頼
***聴視点***
『は~、やれやれ。紅ってば人使い荒いなぁ…』
口ではこう言いながらも、頬が緩んでしまっている自信がある。
この耳が音を拾うことはないのに、紅から任せたと言われたような気がしたのだ。
ちなみに炎は羽織にさせていただきました。
人体を焼き尽くさない、私の炎だからできる保存術だ。
いざとなったらこの炎でシンラくんを手助けするつもりだったけど、問題なさそう。
見上げた先ではシンラくんが見事、矢を蹴り飛ばしていた。
これで後は紅が無双するだけだ。
『さて…。って、あちゃ~…。ミスったなぁ…』
それならば、と自分が相手をしていた敵を捕縛しようと思ったら、いつの間にか忽然と姿を消している。
気配を追っても良いが、藪蛇な気がするので今回はやめておこう…。
はぁ、とため息をついたところで、ドォンという空気の振動を肌で感じ、再び空を見上げれば綺麗な紅い月が昇っていた。
『紅月…か』
少し複雑な思いを抱えながら見上げる月は、憎いくらいに綺麗だった。
…さて、ここまで大きなものとなると、たぶん紅は発火限界だろうけど、シンラくんもいることだし、大丈夫でしょ。
羽織をたなびかせて、ゆっくりと詰所への道を歩き始める。
「あ、先生!手当の人手が足りねェんだ!戻ってきてくだせェ!」
『は~い、いま戻りま~す』
私を呼びに来た若い衆に、のほほんと笑えば、急いでくだせェ、と背中を押された。
あぁ、そうだった、紺兄に説教しなくちゃ。