第10章 詰所の医者
***紺炉視点***
『それじゃ』
と言いつつ片手を上げると、聴はあっという間に町に消えた。
正直、まだ何か隠してんだろ、と追求したかったが仕方ねェ。
「あの、相模屋中隊長」
どこか困惑した様子の桜備に目を向ける。
「昼間にもお見かけしたと思うのですが、彼女は一体?」
「あぁ、そういや腰を落ち着けて紹介する暇がなかったな」
昼間も今も、医者のくせに詰所に留まらず、動き回っている聴。
俺や紅からしてみれば、聴はああいう奴だ、で終わっちまうから、なんの違和感もなかったが…。
外野から見りゃ、俺や紅と特別な繋がりがあるように見え、深いところまで関わっているが、火消しではなさそうな女、だからな。
そんな反応にもなるか。
「聴は詰所の医者だ」
「医者、ですか…」
第8の中隊長が眼鏡を押し上げながら、腑に落ちない、という顔をする。
「妙に情報通で、組手をさせれば紅と良い勝負ができる、自慢の医者だ」
俺の追加情報に第8が沈黙した。
数人の顔に、医者ってなんだっけ…?と書いてある。
詰所の入口に妙な静寂が漂ったところで、若い衆が何かを担いで駆け込んできた。
「あ、すいやせん!お話し中でしたか!?」
「いや、問題ねェ。にしても、おめェ、そんなに慌ててどうした?」
不思議に思いながらも、そいつが担いできたものを見れば、縄でくくられた人間だった。
「あァ!?」
「え、あぁ、いやこれは!姉さんからの指示で!後で話を聞くから縛って詰所に放り込んどけ、って言われやして!」
玄関に降ろされた人間は着物こそ来ているが知らない顔だ。
「…なるほどな。確かに、話を聞く必要がありそうだ。空いてる部屋に放り込んどけ!」
「へい!!」
聴の仕事の速さは相変わらずだが…、こいつァ、早いとこ紅に知らせねェといけねェな。