第9章 情報提供 その1
紺兄の視線を追って、しゃべったであろう人物を見る。
あぁ、やっぱりシンラくんか。見たって言ってたもんね。
「っと、悪いな、森羅。聴は耳が聞こえないんだ。こいつの目が自分に向いてることを確認してから、話すようにしてやってくれ」
「えっ!?耳が聞こえないんですか!?それなのに会話が成立するって…」
『読唇術でね。悪いけど、お付き合いください』
思わず苦笑して謝れば、シンラくんはバッと両手を振って慌てだす。
「いえ、謝らないでください!自分こそ無神経にすみません!あ、自分は日下部 森羅といいます!それでその蟲なんですが、伝導者の一味はそれを使って、人を人工的に焔ビトにしているんです!」
おや、思ったより好青年。人は見かけによらないなぁ。
…おっと、思考が逸れた。
『改めまして、八月一日宮 聴です。へぇ…、人工的に、ね…』
まぁ、知ってたけど。ジョーカーからの追加情報もあるし、漏れは少ないと見ていい。
蟲を出したのだって、情報を共有して危機感をもってもらうためだし。
「聴」
短く私の名前を呼んだ紺兄が、ビンを掻っ攫っていった。
「分かってるな?」
『…あいよ』
紺兄の視線からは、なるべく早急に処理しろ、という指令と、お前はこの件にこれ以上関わるんじゃねェ、という線引きが伝わってきた。
返事はしたけど…、紺兄の想定する、これ以上、レベルは既に知ってるんだよなぁ…。
それに、これからどうなるか…。
たぶん今夜中に伝導者が攻めて来るし。
どうせ紅に返り討ちにされるだろうから、説明に時間を割くことはしないけど。