第6章 氷山の一角
***紺炉視点***
詰所で紅の帰りを待っていれば、聴を引き連れて帰ってきた。
「若!焔ビトは?」
「あぁー、焔ビト自体は葬ってきたが…」
言い淀むのを見て何かあったのだろうか、と思いつつ、紅が担いでいる人物を見てギョッとした。
「な、八百屋のおやじ!?…生きてんのか?」
『ふっ!も~、紺兄まで~。生きてるよ~』
笑いをこらえながら告げてくる聴に困惑する。
八百屋のおやじが焔ビトになった、と聞いてたが…、なら焔ビトになったのは誰だ?
「紺炉、このじじいが焔ビトになったのを見たのはどいつだ?」
「あ?あぁ、いや、焔ビトになるところを見たやつはいませんぜ。見つかった時点で服が燃えちまってて判別がつかなかったから、状況から見て八百屋のおやじだろう、ってことになった、って聞いてましたが…」
『ちなみに浅草で行方不明になってる人はいる~?』
「いや、聞いてねェな」
俺の答えを聞いた紅は、少し悩む素振りを見せた後、めんどくさそうに頭をかいた。
つまり、なんだ?今回の焔ビトは浅草の人間じゃねェ、ってことか?
ようやく俺も事態が理解できてきて、げんなりとする。
『その件で話したいことがあるんだけど~…。とりあえず、おじちゃんを寝かせてあげてほしいかな~』
「…あぁ」
若い衆に指示を出しながら奥に消えていく紅を見送り、聴に目を向ける。
入口のほうを見て、一瞬、目を鋭くさせた聴は、切り替えるように息を吐くと俺を見上げてきた。
『行こうか』
その顔は俺の知らない顔で少し息を呑む。
「…おう」
つられるように気を引き締めて返事をすれば、満足そうな笑みが返ってきた。