第6章 氷山の一角
***聴視点***
縄で縛られ、猿轡をかまされたおじちゃんは意識がなかった。
固まってる紅を他所に、とりあえず呼吸と脈拍、怪我がないかを確認。
ちなみにこの時、めちゃくちゃ神経を使って、左手は微塵も動かしていない。
『あぁ~…、睡眠薬で眠らされた、ってところかなぁ…』
「…生きてんのか?」
『あっはは。失礼だな~。ご存命ですよ~』
ほっとしながら軽口をたたきつつ猿轡を外して、紅におじちゃんを引きずり出してもらう。
『とりあえず詰所に運んどいて~。…あ、そういえばさっきの焔ビトさ』
「このじじいだって聞いてたんだがな」
『ふむ、そっか…。まぁ、何はともあれ、ちょっと離れといてくれる~?』
「あァ?」
『ここにね~、爆弾があるんだよね~。処理するから、一応離れといて~』
右手で地面を指させば、紅の顔が更に険しくなった。
「爆弾だァ?」
『そ~。左手を引けばドカーン。着火しないように処理するつもりだけど、念には念をね~』
紅はジトッとした視線を私に向けた後、おじちゃんを俵みたいに担ぎ、小馬鹿にするように見下ろしてくる。
『…紅さん?』
「失敗しねェんだろ?」
『…はぁ』
不動の気配に圧され、私は地面に視線を向けて右手をついた。
左手でつかんでいた糸をグッと引き、間髪入れずに火花を操作。
わざわざ火花を地上まで引っ張り上げてから、エネルギーとして吸収した。
ゆっくりと立ち上がり、紅と視線を合わせる。
『ご満足いただけました~?』
「ハッ!てめェは慎重すぎんだよ」
『褒め言葉として受け取ろ~。さて、私は爆弾を回収するから』
「2人でやったほうが速ェ」
『あのねぇ…、おじちゃんいるんだよ~?』
「少しほっといても死にゃしねーよ」
『いや、まぁ、そーだけど~…。あぁ、うん、問答してる時間がもったいないね~』
苦笑しつつも私が折れれば、どこからともなくスコップが2つ飛んで来た。
この後、短気を起こした紅が軽ーく地面を吹き飛ばして時短を図り、私が冷や汗をかいたのだが、結果的に早く終わったので忘れることにする。