第6章 氷山の一角
***紅丸視点***
―――さかのぼること数分―――
「止まれ、くそじじい!!」
喧嘩の仲裁に行く前まで話していたじじいが焔ビトになっちまったらしい。
どういうわけか家を壊しながら進んでやがるから、纏で先回りする。
じじいの進行方向に目を向けたところで、下を向いている聴が見えた。
「聴!そのじじい止めろ!」
俺の声は聞こえないだろうが、聴なら気づく。
案の定、こっちを見た聴が目を見開き、右から来るじじいに気づいた。
聴なら片腕が塞がってようとさばける、と纏から降りようとしたが
「!?」
聴が焔ビトをこっちに蹴り上げてきて硬直する。
らしくない雑な扱いに眉間にしわが寄ったが
『紅!その人は八百屋のおじちゃんじゃない!せめて一思いに逝かせてあげて!』
という声が聞こえ、俺は混乱を極めた。
八百屋のじじいじゃねェだと?話が違ェ…。だが、聴が見間違えるはずもねェ、か…?
何にせよ俺がしてやれることはこれだけだ、と片手で拝んだのち、核を貫いた。
崩れ去るのを見送った後、地面に降りて聴のもとに歩み寄る。
当の本人は地面を少し掘り返し、何かをつかむような仕草をしたかと思えば、左手をそこで固定し、右手の袖に隠していたのか小刀を取り出すと何かを切った。
何をしてるのか聞こうにもこっちを見やがらねぇ…。
小刀をしまい、今度は針金を目の前の物置の鍵穴に差し込んだ。
ものの数秒で空いたのを見て、相変わらずの手癖の悪さだな、と思う。
『後はお願いしま~す』
ようやくこっちを見たかと思えば、物置の扉を指さして笑いやがった。
「あァ?ちったァ説明しやがれ」
『説明したいのは~、やまやまなんだけど、人命救助が第一かな~』
その言葉に怪訝な顔をしながらも、扉をガッと蹴り開ける。
誰かが倒れ込むようにして出てきたのを見て、俺は息を呑んだ。