第6章 氷山の一角
というか今のやり取りで、事案臭が増した。
外の人間と協力してドッキリを仕掛けていた、という可能性も考慮してたけど、もしこれがそうだとしたら悪趣味が過ぎる。
『ねぇ、紅』
とりあえず2人きりで話せる場所に行こうと、紅の服の裾をつかんだ。
紅がこちらに顔を向けてくれた、までは良かったのだが
「あ、若!お話中すいやせん!向こうで喧嘩してる連中がいやがるんですが、俺たちだけじゃ止めきれねェ!手を貸してくだせェ!」
「ったく、めんどくせェ…」
これまた間の悪いことに、若い衆が紅を呼びに来た。
おいコラ紅さん、ちょっとテンション上げてんじゃねぇですよ。
っと、それはそれとして。
若い衆…あ、本物ですね。ということは、ちゃんと喧嘩が起こっていそうだ。
まぁ、偽物が喧嘩を起こしている、という線もあるのだが、それを言い出したらキリがない。
紅からお前はどうする?という視線が返ってきたため、逡巡した後、手を離す。
『…紅、気を付けて。いざって時は力を貸すから』
「あァ?喧嘩の仲裁ごときで、俺がどうこうなるかよ」
そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ、と思いながら紅の後姿を見送った。