第56章 ”火事場の馬鹿力”の稽古
***聴視点***
紅たちが組み手を始めて5時間くらい。
そろそろかな、と顔を出すと、ズタンとシンラくんが倒れ伏したところだった。
「ク……ク…ソ…」
おぉ、やってるねぇ。
そろそろ限界ってところかな?我ながらナイスタイミング。
「体内の酸素を使い切ってる…。ブラックアウトしてるんだ…。これ以上続けたら灰病になっちゃう」
心配そうなタマキちゃん。
覚悟なしにこれを見るのはつらいだろうに。
「発火限界か」
私を視界に入れることなく、紅が呟いた。
「新門大隊長、今日の稽古はこれくらいに…」
あぁ、タマキちゃん、残念ながら違うのよ。
「稽古?俺はまだ始めた覚えはねェな」
「?」
律儀に答える紅に、タマキちゃんは困惑顔だ。
バサ、と羽織から右腕を抜く紅
「立て。稽古を始めるぞ」
ひゅーぅ、紅がやると、より一層鬼畜に見えるね、この修行。
「どうした。早く立て!!」
「稽古はまだこれからって…。これ以上続けたら灰病になっちゃいますよ!!」
『タマキちゃん、その限界を超えるのがこの稽古なの。見てられないなら詰め所に戻りな』
少し突き放した言い方をすれば、タマキちゃんは絶句した。
「さァ立て!!」
「端か…ら…ハァやめる気…なんて…あり…ま…せんよ…」
フラフラになりながら、それでも紅に向っていくシンラくん。
「強がりにしか聞こえねェぞ。ただ打たれるだけではやめてるのと同じだ」
そして、それをボコボコにし続ける紅。
「ほら、どうした?動かねェと死ぬぞ!敵は待っちゃくれねェ」
「わかって…ますよ…」
シンラくんの口元に、あの笑みが浮かぶ。
場が独特の雰囲気に包まれ、少し背筋がゾクリとした。