第54章 せめて見たかった…!
***聴視点***
ふと、裏庭で打ち合ってる気配がして、ハッとする。
『あぁー!可愛がりに参加しそびれたー!!』
火あぶりに、引き回しに、水攻めに、振り子に、それから…!
『あぁー…!せめて見たかった…!』
絶対に面白かったのに…!
「なんだ、もう若が直々にやってんのか」
私の様子を見て、紺兄も裏庭でのやりとりに耳をすましたらしく、楽しそうに笑った。
『ま、あの2人をいくら原国式で可愛がったって、先に進めやしないだろうからね~』
「違ェねェ」
限界に追い込む、そういう意味では、本当に“可愛がり”でしかないあれら。
とはいえ。なんせここは浅草だ。
意味がないからといって、やらないという理由にはならない。
『んー、いや、怒りが頭を占めて、雑念が消えるって意味では“可愛がり”も必要な工程なのかな~?』
「さて、どうだろうな。俺も確かめたことはねェからな」
『もう、そういうもん、で終わっちゃうからね~』
けらけらと笑いながら、そういえば私の父も理由の説明はしなかったなと、昔を振り返って思った。
「見に行かねェのか?」
『稽古が始まるにはまだ時間かかるだろうから、少し仕事してくるよ~』
「おう」
ひらりと手を振って部屋を後にする。
さて、どんな炎が見られるか、今から楽しみだ。