第3章 成果
そのまま片付けを続行しようとした私の左手を、紅がパシッとつかんだ。
『紅?』
「…おい、一体どうなってやがる」
『ん~?』
何のことか分からず首を傾げれば、左手をつかむ力が強くなった。
いやいや、イタイ痛い。普通に痛いって。
「灰病が治った、なんざ今まで一度も聞いたことがねェ。なのにてめェは、こうもあっさりと治しやがる。いくらこの浅草が特別だとしても、噂話のひとつも入ってこねェのはおかしい。…てめェ、今までどこで何してやがった?」
あんまりにも早口でまくし立てるもんだから、8割ほどしか読み取れなかったが、大筋は理解できた。
ふむ、まぁ、ごもっともな質問。
とはいえ、全てを話すわけにはいかない。
『いろんな医者とか研究者とかの助手やりながら、独学で勉強してた。灰病の治療については、自衛のために情報操作してたからねぇ~…』
「自衛だァ?」
『そう、自衛~。灰病が治せるってバレたら、皇国のワンちゃん達が何してくるか分からないでしょ~?あいつらに尽くす、なんてまっぴらごめんだし。万が一、表立って動くことになったとしても、拠点は浅草って決めてたからねぇ』
痛いんだけど、という意を込めて、左腕をつかんでいる紅の手をツンツンとつつく。
しかし解放してくれるつもりはないのか、紅の手はスルリと移動し、私の手を握ってきた。
「…てめェはこれからどうするつもりだ?」
『さてねぇ…、紺兄が中隊長となるとさすがにバレるだろうし。相談に乗ってくださいな~』
紅の手を握り返しながら、へにゃりと笑う。
「ははっ。聴は相変わらずだな。…良かったな、紅」
「うるせェ。おい、聴、しばらくは詰所に住め。いいな?」
『ん。喜んで~』
よし、これでしばらくの安全は保障された。