第47章 皇国にいた10年
***聴視点***
皇国にいた10年間、私は目的を果たすために、手段を選ばなかった。
「原国主義者に教えることなど何もない」
そう言って学び舎が門戸を閉ざせば、聖陽教に入ってシスターの資格を取り、黙らせたし。
「浅草生まれの人間に診てもらいたい患者などいない」
まっとうな病院に拒絶されれば、黒い噂のある病院を探したし。
「貴様のような女を雇ってやるんだ。それ相応の対価を貰わないとなぁ?」
欲望に忠実な、権力だけはあるクズがいれば、身体を売って取り入ったし。
「なぁ、先生よぉ、なんか欲しいもんはないか?俺と取引しようぜ」
取引を持ち掛けてくる奴がいれば、浅草の情報を持ってこい、と手を組んだし。
このあたりで私は、偽の身元を手に入れ、男装し始めた。
「腕のいい医者がいるって聞いたから来てみれば…、なかなか上玉じゃない。素敵」
私を取り込もうとしてくる阿呆は、実力行使で黙らせたし。
あぁ、そうそう。ジョーカーに会ったのはこの頃だ。
「関わったが運の尽き。死ね」
そういえば、誰が放ったか知らない刺客を殺したのも、この頃だった。
いい加減うんざりして、真っ当な病院に入った。
「どう見てもその患者は浅草の人間だろう。放っておけ」
…私にとっては、真っ当ではないところもあったけど。
見捨てられた患者をこっそり治したりしているうちに気づいた。
もう能力をある程度使いこなせるし、情報操作さえできれば、自由に動いてもいいんじゃないかって。
閃いた私はいろいろ考えて。
半年に1度、死を待つばかりの患者を、誰にもバレないように治療して回った。
そうしているうちに、私の行動は“神の気まぐれ(ウィムオブゴッド)”と呼ばれるようになった。
私にとっては良い人体実験の機会でしかなかったけど。
ちなみに最後の“神の気まぐれ(ウィムオブゴッド)”は、もちろん灰病患者だったんだけど。
治した翌日、調子にのった患者が発火能力を使って、再び灰病を発病したせいで表沙汰にはならなかった。
リハビリがいる、と気づけたから、ラッキーだったね。