第45章 ほう・れん・そう
***聴視点***
実家に戻り、男装を解いて、声帯を元に戻し、ようやく安堵の息を吐き出す。
浅草に帰ってきた、までは良かったのだが、そのまま紅に詰所に連行されそうになったので、肝を冷やした。
どうにか言いくるめることができた、数十分前の自分を褒めてやりたい。
さて、出勤の時間には、まだ早いけど。紅に話をすると約束しちゃったし…。
しびれを切らして、ここに突撃される前に、詰所に行きますかね。
『そうと決まれば…』
さっさと行こう、と身支度をして必要な物を持ち、玄関に鍵をかける。
『追い出される…、かもなぁ…』
苦く笑って、詰所に向けて歩き出した。
10年前、灰病治療の手がかりを求めて、浅草よりも皇国のほうが医療技術は進んでるはず、と、この町を飛び出した。
浅草の情報は定期的に仕入れてはいたけど、紅との約束もあったし、何があろうと戻らなかった。
…合わせる顔がなかった、とも言う。
あの日々を後悔することはないけれど。
紅や紺兄、この町を失ったら、私はどうやって生きていけばいいんだろう。
ジョーカー…は、無気力な私に興味ないだろうし。
詰んでるじゃん、と思ったところで詰所に着いた。
音をたてないように入れば、そこには仁王立ちした紺兄が。
『んぇ…?紺兄…?』
「おう聴。お前ェも若とやんちゃしてきたんだろ?」
『…なるほど、説教が先、と』
「否定しねェんだな?」
『あ~…。多少の言い訳はさせてもらいたいけど~…、うん、説教は受けるよ』
「殊勝な心がけだな」
大人しく紺兄の後を歩きながら、そりゃバレるわな~、とちょっと現実逃避した。