第43章 第1の大隊長、ねぇ…
「灰島か…。あそこは紺炉の薬で世話になってるから、殴り込めねェな」
厳密には、世話になったから、だけどね。
ケロッとした顔で、嘘とも本当とも言えないことを言う紅。
私はフードの下で明後日の方向を見ていたが、ジョーカーがギョッとしながら、こっちを向いたので、そっちに視線を合わせる。
「お前、聖陽教と灰島の関係的に、今日の件で薬を止められるとは考えなかったのか?」
「考えもしなかった」
なんせ、考える必要もなかったからね。
「そのことも私がなんとかしておこう。その代わり灰島を探ってほしい。立場上、灰島相手では私は動くことができないのでな」
うーむ、この威厳は紺兄と通じるところがあるなぁ…。
ジョーカーと紅が退散し始めたのを見て、私も足を1歩踏み出した。
…が、ふと気になることがあって、バーンズさんのほうを振り返る。
「?まだ何か?」
『1つ聞きたい。直感でいい。第1の大隊長でも、神父でもなく、アンタ個人が未来を託すなら誰だ?』
「!それは、どういう…」
『深い意味はない。個人的な興味だ。で、誰の顔が浮かんだ?』
「…シンラ クサカベだ。正直、彼の顔が浮かんだことに、私自身、驚いている」
へぇ…、ちょっとした思いつきだったけど、こっちは聞いておいて良かった。
『せっかくだ、本人に伝えてやったらどうだ?…邪魔したな』
そう言って、踵を返そうとしたとき、視界の端で「待ちたまえ」と言われたのが見えた。
「君には、譲れないものがあるか?」
意趣返しのように、脈絡のない質問をされた。
ふむ、譲れないもの、ねぇ?
はぐらかしても良いけど…、さすがに真面目に答えないと不誠実がすぎるか。
『俺にとって大事なやつの隣。…お互い他言無用だな、これは』
私の答えを聞いて、目の前の隻眼が少しだけ見開かれた。
思わず、口外禁止を告げる言葉に苦笑が滲む。
対峙する瞳が、こちらを、より見定めようとする色に染まってしまったので、私はそれを振り切るべく踵を返して走り出した。
三十六計逃げるに如かずってね。
追ってくる気配はない。
個人的には嫌いじゃないから、どうか、次に会うとき、敵じゃないことを祈ってるよ。