第35章 お約束
***聴視点***
建物の上にジョーカーを見つけ、紅と一緒に纏から飛び降りる。
皇王庁周辺の明かりのおかげで2人が良く見え、ついでに、混ぜるな危険、の文字も見えた気がした。
『うん、想像はしてたけど、物騒な絵面』
ははっ、皇王庁の皆さん、ご愁傷様です!
「おう、おふたりさん。待ってたぜぇ」
声をかけてきたジョーカーは楽し気な笑みを浮かべている。
「にしてもミヤ。その格好で、その声そのしゃべり方はねェだろ」
ない、と言っているジョーカーの目は、違和感が気持ち悪い、と雄弁に語ってきた。
『はいはい、ただいまー』
後ろ手に炎を操り、声帯を少しいじりまして…。
『こんなもんでどうだ?』
変わった私の声に、ニヤつくジョーカーと、目を見開いたまま無言の紅。
ふむ、上々の反応ありがとうございます、紅さん。
『そういうわけだ、紅。浅草に戻るまではこのままだから、なるべく早く慣れてくれ』
「……ったく、余計な知識ばっか増やしやがって。てめェは医者じゃねェのか?」
うるさいな!れっきとした医者ですよ!
けっ!と思いながら、話を逸らすべく本日の舞台を眺める。
「あれか」
私の視線を追った紅が、確認するように口を開いた。
「見て分かる通り、開けた土地に厳重な警備。密かに侵入とはいかない。そういうわけで正門から正面突破で行こうか」
「分かりやすくていいな」
ジョーカーと紅の会話に、ツッコむべきか些か悩む。
正門から正面突破って…、敵に同情するわぁー…。
「しっかし、いくらミヤがいるとはいえ、よくこんな怪しいやつに付いて行く気になったなァ。お前、相当変わってるぜ?」
「あー、そいつはお前が怪しいからこそだ。俺が見張って、怪しい動きがあれば潰せばいい。そんなやつに、こいつを任せる気もねェ」
ねぇねぇ、紅さんや。それは私を心配してる?それとも私も疑ってる?
そんな気持ちを込めて、ジト目で紅を見たが、視線の先では
「押すなよ?ここ高いんだから」
「まだ押さねェよ」
というコントが繰り広げられていた。
まだ、ってなに、まだ、って。