第2章 「笑顔って怖いよね」/源頼朝
玉藻によればそのあやかしは猫又というそうで、
人を喰らって呪力を回復させるために、
鎌倉近くまで京の都から移動してきたというあやかし間の噂を耳にしていたと言う。
京の都には泰親さんのような陰陽師がたくさんいるので、
人を襲うのも容易ではなくなってきたからだろうと、
玉藻がこの村へ来る前に言っていたのを思い出す。
狐憑きの力を持っていても中身はただの平凡な女な私は、
別にあやかしに耐性がある訳でもないから、
怖いのは当たり前だけれど、
そんな恐怖と同時に、
この村の人たちを守りたいという想いも心の底から溢れ出ている。
山奥へと進んでいけば、
段々と辺りは木の影で暗くなっていく。
ところどころ日が射し込んでいたりもするけれど、
やはり山の中は薄暗い。
「こんな山奥にその猫又っていうあやかしがいるの?」
「ああ、微かだが妖力を感じる。
猫又というあやかしは、
山に近付いてきた者や主に夜に活動するからな。
こうも明るければ薄暗い山奥に潜んでいるだろう」
玉藻が感じる呪力の痕跡を猫又への道標としてただ前を歩く玉藻について行く。
「(今回は玉藻がいてくれて心強いかも……)」
玉藻と私は契りを交わした密接な関係でもあるけれど、
玉藻がいる時のあやかし退治はとてつもない安心感を覚える。
「(それだけきっと、
私が玉藻を信頼してるって証なのかも)」
そう思えばストンと心に落ちてその通りなんだと納得する。