第11章 歌仙兼定vs大倶利伽羅 白と黒の誘惑・:*+.
「…寒くないか?」
少し肩を震わすいろはに自分の上着を掛けてやると、「あったかい…」と嬉しそうに微笑む。
その柔らかい笑顔に自然と胸が高鳴った。
「何かに悩んでいるなら、あまり深く考えすぎるな。」
「っ!…私ってそんなに分かりやすいですか?」
「顔を見てたら分かる。何かあったら俺に言え。」
"俺を頼って欲しい"と素直に言えない口下手さは自分でも嫌ってぐらい分かっている。
どうしたらいろはを笑顔にしてやれる?
「ふふ…私は猫じゃないですよ?」
「そうだな。」
不器用な俺は言葉を探すのをやめて、いろはの頭を優しく撫でた。
柔らかなその髪の毛が心地良くて、ずっとそうしていたくなる。
「外は冷える。あまり長居するなよ?」
自室に戻ろうと歩き始め、渡り廊下から一度だけいろはを振り返った俺は、自分の上着を嬉しそうに羽織る姿を見て頬を緩めた。
「君もそんな顔をするんだね」
「…」
渡り廊下の先に立っていた歌仙の言葉で、急に現実に引き戻される。
「あまり僕のいろはを絆さないでくれないかい?」
「…"僕の"いろは?」
明らかに嫌悪感を剥き出しにする大倶利伽羅を、歌仙は挑発するような瞳で見据える。
「いろはの隣にいるのは昔も今も僕だからね。」
「初期刀の狂乱だな。この先誰といたいかはいろは自身が決めることだ。」
「いろはは絶対に僕を選ぶよ?」
「…勝手に言ってろ」
自室に戻った大倶利伽羅は苛立つ拳を壁に打ちつけ、決意とともに瞳に熱を宿した。
翌朝ー。
いろはは昨夜借りた上着を手に持って食堂へ向かう途中、書斎に入っていく大倶利伽羅の姿を見つける。
「大倶利伽羅さん!おはようございます」
「あぁ…おはよう」
ぱぁっと花が咲いたような笑顔で挨拶をするいろは。
「昨日はありがとうございました。」
「あの後はよく眠れたか?」
「はい!大倶利伽羅さんも一緒に朝餉を食べに行きましょう?」
無邪気に笑ういろはを見ていると、昨夜、自身に芽生えた闘争心と独占欲が掻き立てられる。
いろはに自分だけを見てほしい。
自分だけがいろはに触れたい。
「わっ…!」
俺に上着を手渡すいろはの腕をぐっと引き寄せ本棚に追い込む。