第8章 宗三左文字 籠の中の歪んだ愛・:*+.
その後、正午の外務を終えて帰宅した彼女。
その笑顔がいつもより悲しげで、違和感を覚える。
加州が審神者評論会で酷評を受けたと話していたけれど…。
…彼女が心配でたまらない。
「入りますよ?」
審神者部屋に彼女の姿はない。
「あぁ…あそこですね。」
僕には心当りがあった。
僕は本丸の裏庭にある小さな廃寺に向かった。
山道には紫陽花が満開に咲いていて、今朝降った涙雨に濡れて煌いている。
その奥の廃寺に佇む彼女の姿を見つけた。
「こちらでしたか。」
「宗三さん?どうしてここが?」
「いろはの考えなんてお見通しです。」
「ふふ。かなわないなぁ。」
潤んだ瞳で笑みをつくる彼女。
「無理して笑う必要はありませんよ。辛いときは素直に泣いて良いんです。」
「…っ!…本当に何でもお見通しですね」
彼女の瞳から大粒の涙が溢れる。
その涙さえ美しいと感じてしまう僕はどうかしている。
「いろはが誰よりも努力していること、僕はちゃんと分かっていますよ?」
僕は彼女の頬にそっと触れ涙を拭う。
ふと僕を見つめた彼女の潤んだ瞳に息をのむ。
もっと触れたい。
その瞳に僕だけを映したい。
僕は彼女の顎をすくい上げ、優しく口付けをした。
「…っ宗三さん?」
彼女は目を見開き驚きを隠せない様子で僕を見つめる。
「涙が止まりましたね。」
「あのっ…?」
「主ー!いたいた!!もぅ探したんだからね!」
加州が息を切らして走ってくる。
「もぉ!一人で落ち込んじゃだめっていつも言ってるのに。ほら?とりあえず本丸に戻るよ?」
加州は彼女の手を引き歩いていく。
「あっ…うん。宗三さん?帰りましょう?」
彼女は何度か振り返り、困惑する瞳で僕を見つめる。
きっと彼女は口付けの意味を考えるだろう。
これで彼女の頭の中は僕でいっぱいになる。