第2章 加州清光 甘酸っぱい想い・:*+.
「…まったく手がかかるなぁ」
急いで走っていく清光を優しく見つめて安定は困ったように笑った。
その頃粟田口の部屋には一期一振と審神者の姿があった。
「今日は急にこんなことになってしまって…本当にごめんなさい。驚きましたよね」
「いえいえ。主のお役に立てたのなら本望ですよ。」
一期一振は柔らかく微笑む。
「一期さんはいつもこの本丸の為に頑張ってくださって感謝でいっぱいです。何かお礼をさせてくれませんか?」
「主、そのお気持ちだけで十分ですよ」
「誉をとっても何もいらないと仰るので…今日こそは何かご褒美を用意したいです!」
大きな丸い瞳で自分をじっと見つめる主に、一期一振は口元をほころばせる。
「…ではひとつだけ。我儘を言ってもよろしいでしょうか?」
可憐で優しい主を影で慕ってきた一期は、蓋をしていた自分の欲を隠しきれなくなり、つい心の声を口にしてしまった。
「もちろんですよ!なんでも言ってください!」
「っ…!そんなお顔で私を見てくださるなんて…主は本当に愛くるしくて…私は…」
普段、我儘を言わない一期が自分にねだってくれた事が嬉しくて、ぱぁっと花が咲いたように笑う可愛い主に、一期はもう感情を抑えられなかった。
「一期さん?どうしました?」
「無礼をお許しください」
「えっ?」
その瞬間手首をぐっと引かれて、一期一振に抱きしめられたいろはは、理解が追いつかず混乱する。
「一期さん?えっと…?これは…?」
「主、私は主のことをお慕…」
ばんっ!!!!
その瞬間、大きな音を立て障子が開かれ、清光が姿を表す。
清光は2人が抱き合う光景を目の当たりにして、呆然と立ちすくむ。
怒りと焦りと嫉妬ともうよく分からないぐちゃぐちゃの感情が溢れ、咄嗟にいろはの腕を掴み無我夢中で走り出す。
「やっぱり主には加州殿ですか…。ふっ…諦められたら楽なのに…」
1人部屋に取り残された一期一振は、誰にも聞こえないようにそっと呟き、天井を見上げた。