第20章 明石国行 眼鏡の奥の熱い春情・:*+.
「昨日は辛い思いをしたらしいな…。大将が無事で本当に良かった。」
「明石さんが助けてくださったので、私は大丈夫でした。」
明石さんを思い浮かべると、じわじわと頬が赤く染まるのが分かり、咄嗟に両手で隠す。
「"おひぃさん抱っこ"なんてされて、どないしたんですか?」
突如、薬研さんの背中越しに意中の人が顔を出し、心臓がどくっと跳ねる。
「っ…!明石さん…!」
「大将が目眩を起こしてな。明石の旦那、そんなに妬かないでくれ。」
「はぁ…。主はん、何ですぐ自分を呼ばへんねん…」
明石さんの拗ねたような表情に胸がきゅんと締め付けられる。
そんな反応されちゃったら…嬉しくてはにかんじゃう…。
「疲労と貧血だな。」
医務室に入り、一通りの診察をした薬研さんは、確信を持ったように頷く。
「ここ数日ずっと徹夜で働き詰めだっただろう?それに加えて昨日の出来事…。精神的にも疲れが出たんだな。」
「情けないです…」
「なぁに言ってんだ、大将。あんたは頑張りすぎだ。ちょっと肩の力を抜け。」
「薬研さん…ありがとうございます。」
私の肩を優しくぽんぽんと叩く薬研さんの手を、明らかに不機嫌な明石さんがぱしっと払い退ける。
うぅ…明石さんが可愛すぎてどうしよう…!
「くくっ…主治医からの処方箋は"湯治"だ。」
明石さんの様子を見て、何かを思いついたように、にやっと笑う薬研さん。
「温泉ですか?」
「あぁ。一日ゆっくり湯に浸かって、疲れた身体を癒してくること。ちょうど手が空いてる明石の旦那を、用心棒に連れて行くのはどうだ?旦那の左手も湯につければすぐ治る。」
「えっ?でも…明石さんにご迷惑じゃ…」
それに二人きりで温泉なんて…まだ心の準備がっ…!
って私たち恋仲でもないし…私ったら何を想像してるのっ!?
私は動揺を隠しながら、答えを委ねるように、ちらりと明石さんを見る。
「えぇですけど。自分暇なんで…。ほな行きましょ。」
「えっ…!?あっ…明石さんっ…!」
そっけない言葉とは裏腹に、そそくさと立ち上がって、私の手を引き歩き出す明石さんは、心なしか浮き立っているように見える。
「俺っちお墨付きの秘湯に浸かれば、どんな怪我も一発で治る。あっ…悪戯な客には注意しろよ?」
意味深に微笑んだ薬研さんの忠告を深く考えることなく、私たちは時空移転装置で温泉へと向かった。