第19章 髭切 姫彼岸花の約束・:*+.
「お守りです。どうか御武運を…」
「ありがとう。ふふっ。僕より君の方が加護の力は強いのかもね。」
くすくすっと笑う髭切さんは、解けた私の髪に何かをつけてくれる。
「離れてても…愛してるよ。」
小さな声で囁かれた言葉は、時空移転装置から発される騒音で消えてしまう。
「えっ?」
「ねぇ、いろは。僕が必ず君を見つけるよ。それまでいいこで待っててくれる?」
「はいっ。」
私の頬を包み込み、口付けてくれる彼の手をぎゅっと握り、精一杯の笑顔を作る。
涙で滲んだ瞳に映る、あまりに優しく笑う髭切さんが永遠に記憶に残りますように…。
私は胸に刻み付けるようにぎゅっと瞳を閉じる。
私たちはコツンとおでこを付け合わせ、小指を絡ませ合う。
「約束だよ?」
「約束です。」
パァァァァ…
全身が眩しい光に包まれ、次に目を開けるとそこはいつもと変わらない本丸の自室だった。
「っ…!夢だったのかな…?甘く幸せな夢…」
力なく呟きしゃがみ込んだ私は、鏡に映った自分の髪に姫彼岸花の髪留めが付いている事に気付いた。
これ…
もしかして昨日、髭切さんが呉服屋で買い物していたのって…これの為?
うぅっ…髭切さんっ…髭切さん…。
「…夢じゃない。また絶対に会える!」
私は潤んだ瞳をごしごし擦り、鏡に向かってにこっと笑みを作ると、部屋を飛び出した。
「みんなー!ただいまー!!」
「主!?わぁー!心配したよー!!おかえり!!!」
姫彼岸花の花言葉
"また会う日を楽しみに"。
ー数ヶ月後。
花山院さまの逝去を弔い、本丸に戻った私は花山院さまから生前に託されていた依頼文に改めて目を通していた。
花山院さまからの最後の願い。
"兄弟の刀剣男士の面倒をみてやってほしい"
通常、審神者が不在になった刀剣男士は政府御抱えになる。
しかし、審神者本人の強い希望があれば他の審神者に譲渡されることもある。
花山院さまがとても可愛がっていた兄弟。
どんな刀剣達なんだろう…
粟田口の兄弟かなぁ?ふふ…楽しみだなぁ。
「主ー!!なんかすごい刀剣男士が来た!!」
その時慌てた様子の安定くんが部屋に駆け込んでくる。
「え?すごい刀剣男士?可愛いじゃなくて?」
「へっ!?あれを可愛い…って言うの!?と…とにかく来てっ!!はやくっ!」
「わわっ…!」
私はぐっと腕を引かれ、裏庭へと走る。
