第19章 髭切 姫彼岸花の約束・:*+.
審神者としては失格かもしれない。
だけど私は審神者である前に"一人の人間"だから。
彼の背負っているものを少しでも軽くできるのなら…
彼の哀情を少しでも溶かすことが出来るのなら…
「そして、私も自分に問い続けます。貴方の想いを蔑することはできない。だから…そんなに悲しそうな顔しないでください。」
男は少しだけ瞳を見開いた後、喜色を浮かばせ穏やかに細めた。
まるでずっと探していた何か見つけたように。
「我名は"琥珀"。お前の事をもっと知りたくなった。やはり我が城に連れ帰る。」
「へっ!?だめです!待ってください!!」
琥珀は私の手をぎゅっと握り、懐から扇型の装置を取り出す。
まさか時空移転装置!?連れさられるっ!
「いろはに触れるな。」
カチャ…
刹那、夜陰に紛れて現れた髭切さんが行手を阻み、刀の切っ先を琥珀の首に向ける。
目だけで人を殺めるほどの鬼気迫る表情に、その場が凍りつく。
「あぁ。睦月の気配はお前だったか。源氏の重宝"髭切"。外には五十以上の鬼がいたはずだが…お前にとっては物足りなかったか?」
「ねぇ、"歴史修正主義者"。僕は今すごく不機嫌なんだ…鬼になっちゃうかも。僕のいろはから手を離せ。それとも、その腕斬り落とされたいか?」
「ははは。実に面白い。睦月の刀剣男士と葉月の審神者が出会い、惹かれあうとはな。だが困ったことに…我はいろはが欲しくなった。」
ガッ!!
「っ!」
「髭切さんっ!!」
琥珀が短刀の鞘で髭切さんの脇腹を突くと、赤い染みがじわっと戦装束に広がっていく。
「なかなかに重傷のようだな?まだ戦えるか?」
琥珀は私をぐっと抱き寄せると、札に霊力を注ぎ、時間遡行軍を顕現させる。
よろけて膝をついた髭切さんに、時間遡行軍がじわじわと詰め寄る。
「髭切さんっ!髭切さんっ!!」
「我と共に行こう。お前も我の城をきっと気にいる。お前は何が好きなのだ?我が何でも与えよう。」
「私は行かない!離してっ!!」
「そんなに嫌か…。これでも我は数々の女子(おなご)から好意を持たれているのだぞ?容姿も悪くないはずだが…」
琥珀がどこか拗ねたような声で呟き、私の両腕を背後で拘束する。