第19章 髭切 姫彼岸花の約束・:*+.
木の上の鳥が狂ったように鳴きながら飛び立ち、猫たちが一斉に逃げていく。
この気配…!!
「いろはおいで」
私を守るように片腕に閉じ込めて、辺りを鋭く見据える彼。
彼の優しい表情が一変し、私が感じられるほどのぴりぴりと殺気を帯びた表情になる。
その表情で気づいてしまった。
彼は"人ならざる敵"の存在を知っている。
彼は私を瞬時に抱き上げ、本殿の中に入ると、一番奥の間に優しく下ろす。
長い年月と共に朽ちた本殿の屋根は半分剥がれ落ち、頭上には真っ赤に染まった満月が不気味に微笑んでいる。
「ねぇ。隠れんぼしよう。」
「えっ?」
「外にね、鬼たちがいるみたい。でも安心して。君は僕が守るから。だから君は見つからないようにここに隠れていてくれる?」
人間は決して口にしない言葉の数々や、彼から見え隠れする荒魂、和魂の強い精神。
…彼は"人"ではない。
私は導き出した一つの答えを胸に、彼の手をぎゅっと握る。
「待ってください…貴方は…"付喪神さま"ですか?」
彼はその問いかけで、私の心を悟ったように朗らかに微笑む。
「ねぇ。僕たちって不思議な縁だと思わない?この時代で審神者の君と"刀剣男士"の僕が出会うなんて…。でも偶然じゃない。僕はね、君とはいつか出会う運命(さだめ)だったと思うんだ。」
政府に厳しく管理されている審神者は、出陣先で他の本丸の刀剣男士に出逢うことなど無いに等しい。
だが、私たちは出逢ってしまった。
彼に出逢い瞬く間に惹かれて…これを運命と呼ばないならなんと言うのだろう。
全ての想いを伝えるように、ぎゅっと彼を抱きしめる。
「僕は審神者、睦月の重宝"髭切"。千年待ってようやく君に会えた。君のことは必ず僕が守るよ。」
ザクザク…ガッガッ…
外から蠢く時間遡行軍の足音。
その数は恐らく五十を超える。
冷静になれ。自分。
彼を守るために私に何ができる?
私は霊力を集中させ、敵の位置を正確に把握する。
「髭切さん、時間遡行軍の数はおよそ五十…。本殿を取り囲むように配置されています。」
「うんうん。戦は力任せじゃ勝てないからねぇ。正確な偵察結果をありがとう。じゃあ、屋根の上から行くとするよ。」
「髭切さん…」
「ねぇ、いろは。僕に命を与えてよ。君たち審神者の言葉は僕たちが戦う"意味"になるんだよ。君の言葉で僕は強くなれるんだ。」