第19章 髭切 姫彼岸花の約束・:*+.
「僕は猫に好かれるみたいなんだよね。ここでよく猫たちと日向ぼっこをするんだ。あっ。この場所は僕たちだけの秘密だよ?」
くすくすと人差し指を唇に当てて微笑む彼は、人気のない古い廃神社の境内を進んでいく。
私たちが階段に腰かけると、彼に気付いた猫たちがすり寄ってきて、ゴロゴロと甘えながら彼の膝に座り、気持ち良さそうに寝息を立て始める。
「うわぁ…可愛いっ…!」
「君も撫でてあげて?」
猫も猫にまみれる彼も可愛すぎるっ!
猫に…なりたい。…なんて。
「すごく懐かれてますね。猫たちも幸せそう。」
「ん?君も"いいこ"してほしいの?」
「えっ…」
「よしよし。いいこいいこ。」
彼は大きな掌を私の頭に置くと、慈しむように撫で始める。
その温かい体温と甘い声に安心しきって身を預けてしまう。
「ふふ…猫になれた気分です。」
「今日は怖い事がたくさんあったけど、よく頑張ったね?いいこだね。」
「っ…!」
不安や疲れで固まった心を溶かしてくれるような、優しい言葉にじわっと涙が溢れ出す。
あぁ…もう隠せない。
私は彼の事をどうしようもなく好きになってしまった。
「おや。怖い事思い出しちゃったかな?もう大丈夫だよ。僕が守ってあげる。」
「違っ…嬉しくて。貴方が優しくて…」
「うんうん。おいで?」
彼は膝の猫を優しく階段に下ろすと、私をぎゅっと抱きしめて、涙で濡れた目尻にちゅっと口付ける。
「っ…!」
「涙が止まったね?」
「あっ…あの…」
間近でくすっと微笑む彼の顔を見れなくなり、ぎゅっと閉じた目蓋に柔らかな唇が触れる。
そのままおでこ、頬、鼻…と顔中に降り注ぐ口付けの嵐。
えっ?えっ!?
どうしよう…目が開けられない…
彼に口付けされた箇所から灯った熱が全身へ広がり、身体がどんどん火照ってくる。
「このまま離したくないなぁ。ねぇ。どうしても帰らなきゃだめ?いつか君のところに"僕"が現れたら、そっちの"僕"を好きになっちゃうかな?」
「えっ?」
「嫌だなぁ。僕だけの君でいてくれない?」
意味深な言葉に目を開いた瞬間、ふわっと蕩けるような笑顔を見せた彼の顔が近づく。
「ねぇ?君の名前を教えて?」
「あっ…私は…いろはと申し…」
唇に彼の吐息がかかる。
淡い期待を心に宿した瞬間…
ゴロゴロゴロ…!
雷が鳴り響き、空が闇に包まれ、周りの空気が重く変わる。